琴のたとえ|「才能がないから弟子やめる」とお釈迦さんに相談したソーナさんの話

ちしょう
ちしょう

本記事は「雑阿含経巻第9-254」の内容を基に作りました。

琴のたとえ

ソーナ
ソーナ

・・・・・・

弟子2
弟子2

どうしたんですか? ソーナさん

ソーナ
ソーナ

いや、もう私、このままじゃダメなんじゃないかって……

弟子1
弟子1

どうしたんですか? 急に

ソーナ
ソーナ

ずっと思ってたんです。私には才能ないんじゃないかって……

弟子2
弟子2

才能?

何の話ですか?

ソーナ
ソーナ

私、お釈迦さんししょうの弟子になって、必死に修行を頑張ってきました。

皆さんに置いて行かれないように、頑張って、頑張って……

弟子1
弟子1

確かに、ソーナさん頑張り屋さんですよね

ソーナ
ソーナ

でもいくら頑張っても、私、お釈迦さんほとけのようにはなれません。お釈迦さんししょうのいう所がいまいちピンとこない事がありますし、お釈迦さんの弟子皆さんに追いつこうと必死で……

弟子1
弟子1

大丈夫ですよ、私も分からない事だらけですよ

ソーナ
ソーナ

そうやってどんどん先に行っちゃうんですよ。皆さんは……。

ソーナ
ソーナ

私も自分なりにずっと頑張ってきたつもりです。

でも私、何も得ていない……、何もないんです。

ソーナ
ソーナ

最近、このままでいいのかなって思うと、もう頑張る気力さえ失せ始めてきて……。

弟子1
弟子1

いやいや、私に比べたら、ソーナさん頑張っている方———

ソーナ
ソーナ

———もうダメなんです!

だからもう私、弟子やめようかと思うんです。

弟子2
弟子2

え?

いやちょっとまって。

弟子1
弟子1

落ち着いて!

ソーナ
ソーナ

幸いなことに、私はもともと、生活には困らない、むしろ余裕のある暮らしをしていました。

ソーナ
ソーナ

だから才能のない私は弟子をやめて、僧侶である皆さんに財を施し支える方が、自分にとっても、皆さんにとっても、有益なんじゃないかと思うんです。

弟子1
弟子1

いや、それは違う———

ソーナ
ソーナ

———もう、ここが私の限界なんですよ。

弟子2
弟子2

だからその———

ソーナ
ソーナ

———いや、いいんです……


↑↑↑

弟子1
弟子1

(ー↑↑↑ー)という事がありまして……。

師匠、どうしたらいいでしょうか?

お釈迦さん
お釈迦さん

なるほど。わかりました。

ならば、私がソーナさんと話をしましょう。

弟子2
弟子2

ソーナさん。お釈迦さんがお呼びです。

ソーナ
ソーナ

ちょうど良かった。私も師匠に、お話ししたいことがありましたので……

お釈迦さん
お釈迦さん

ソーナさん。あなたは弟子をやめようかと悩んでいるそうですね?

ソーナ
ソーナ

そうです。その通りです。

師匠はすでに私の気持ちを知っているのですね。

お釈迦さん
お釈迦さん

私はあなたの頑張りを知っていますよ。

ソーナ
ソーナ

ここまで、頑張りに頑張ってきましたが、ここが私の限界のようです。きっとそうなんです。

お釈迦さん
お釈迦さん

あなたに聞きたいことがあります。あなたの心のままに答えてください。あなたの素直な気持ちが聞きたいのです。

ソーナ
ソーナ

はい

お釈迦さん
お釈迦さん

ソーナさん。あなたは弟子になる前に、わりと余裕のある生活をしていたと言っていたようですが……

ソーナ
ソーナ

はい。そうです。

お釈迦さん
お釈迦さん

音楽にもある程度、心得があるとのことでしたよね?

確か、琴の経験があったとか?

ソーナ
ソーナ

そうですね。こう言っては何ですが、琴を弾くことに関しては、自信があります。

弟子2
弟子2

そういえば、聞いたことあります。ソーナさん、弦楽器の演奏に関しては、かなり上手らしいですね。

弟子1
弟子1

弦楽器? 琴ってどんな楽器?

こんなの?

Clker-Free-Vector-ImagesによるPixabayからの画像

それともこんなの?

tarobooからの画像

ちしょう
ちしょう

インドの琴で調べると、こんな感じの琴が挙げられています。

弟子2
弟子2

そのインドの琴は「ヴィーナ」って呼ばれているみたいですね

お釈迦さん
お釈迦さん

それでソーナさん。琴について教えてくれませんか?

ソーナ
ソーナ

はい。構いませんが……

お釈迦さん
お釈迦さん

やはり琴で良い音色を出すには、調律は欠かせないですよね。

弟子1
弟子1

調律?

弟子2
弟子2

調整ってことかな。ほら、琴なら弦が張ってあるじゃない。そこを弾いて音を出すから、そこを調整するんでしょう?

弟子1
弟子1

まぁ、弦が緩すぎたら音が出ない事ぐらいはわかりますよ

ソーナ
ソーナ

いや、張ればいいってものではないですよ。

弟子1
弟子1

まぁ、引っ張りすぎたら、切れちゃいますね

ソーナ
ソーナ

それはさすがにやりすぎですね。

弦は張れば張るほど、音が高くなります。

まぁ、弦の長さや細さでも変わりますけど……

弟子1
弟子1

じゃぁ音を低くするには?

ソーナ
ソーナ

弦の緩めますね。

また、弦が長い、あるいは太いと低くなります。

弟子1
弟子1

へぇ。楽器ってそのまんま、すぐに弾けるんじゃないんだね

弟子2
弟子2

弦が緩すぎたら、そもそも音すら出せないから、やっぱり調整は必要でしょう。

ソーナ
ソーナ

まぁ音を出すだけなら、簡単ですが……

お釈迦さん
お釈迦さん

どうしたら良い音が出るのですか?

ソーナ
ソーナ

もちろん、強すぎてもダメですし、弱すぎてもダメです。

琴の具合をよく見て、調えます。琴の状態にもよりますし、そりゃ、演奏する環境によっても条件が変わりますから……

お釈迦さん
お釈迦さん

強く張りさえすれば、いい音が出るっていうものではありませんよね?

ソーナ
ソーナ

そうですね。

お釈迦さん
お釈迦さん

じゃぁ緩めさえすれば、いい音が出るっていうものでもありませんよね?

ソーナ
ソーナ

もちろんです。

お釈迦さん
お釈迦さん

なら正解はなんですか?

ソーナ
ソーナ

ですから、琴の状態にもよりますし、演奏する環境によっても条件が変わりますから……、一概にこれが正解ってものはないです。

弟子1
弟子1

これといって正解はないんですね。

ソーナ
ソーナ

いやでも、その時その時でベストだと思える状態はありますよ。

弟子2
弟子2

その時その時で正解(ベストな状態)は変わるのですね。

ソーナ
ソーナ

そうですね。それはもう、口だけで言っても仕方ありませんよ。

弟子1
弟子1

んー。実際にやってみないとわからないってことですか?

ソーナ
ソーナ

そうですね。経験も必要ですよね。

弟子2
弟子2

単に知識として知っているわけじゃなくて、経験によって培っていくものなんですね。

お釈迦さん
お釈迦さん

ふむ。ソーナさん。

ちゃんとあなたは心得ているじゃないですか。

ソーナ
ソーナ

お釈迦さん
お釈迦さん

確かにあなたは頑張り屋さんです。

修行に対する姿勢も誰よりも頑張っていたと思います。

ソーナ
ソーナ

誰よりも頑張っていた……か。

それでも、仏道において何も得ることができない私は、やっぱりダメダメなんでしょうね……

弟子1
弟子1

いや、そこでまた、頑張ろうとする……

弟子2
弟子2

少し力を抜いてください。

弟子1
弟子1

そんなに心配しなくても、師匠もちゃんと心得ているって言ってくれているじゃないですか。

ソーナ
ソーナ

いやでも……

お釈迦さん
お釈迦さん

頑張ることは大事なことですよ。

でも今のあなたの頑張りは、まるで張り詰めた、今にも切れてしまいそうな弦のようです。

ソーナ
ソーナ

ならばきっと私は、その限界まで張り詰めた弦を緩めたいのだと思います。弟子をやめて———

弟子1
弟子1

———いやだから、そこまで、緩めなくても……

弟子2
弟子2

今までやってきた事、すべて投げ出して、何もかも無かったことにして、また一からやり直すつもりですか?

ソーナ
ソーナ

だって私、仏道の……持っていないから……

お釈迦さん
お釈迦さん

すべてを投げ出そうとするあなたは、まるで緩めすぎて、もう音も出せなくなってしまいそうな弦のようです。

ソーナ
ソーナ

なら、間をとって、弟子をやめて(還俗げんぞく)、信者として、金銭面から、お釈迦さんししょうや弟子の皆さんを支える。それでいいですよね。

弟子1
弟子1

きっと、ソーナさんのことだから、還俗しても、頑張りすぎちゃうのでは?

弟子2
弟子2

私はそれがソーナさんにとってベストとは思えないです。

ソーナ
ソーナ

……

お釈迦さん
お釈迦さん

あなたはちゃんと心得ていますよ。

お釈迦さん
お釈迦さん

なのに、自分は何も得ていないと決めつけていないですか?

弟子2
弟子2

いくらやってもダメ。

自分には才能がない。

今までの全てが無駄だった。

弟子をやめる。

弟子1
弟子1

どうしてその答えになっちゃうんですか?

ソーナ
ソーナ

どうして……?

なら正解は何ですか?

お釈迦さん
お釈迦さん

「ですから、琴(自身)の状態にもよりますし、演奏する環境によっても条件が変わりますから……、一概にこれが正解ってものはないです」ってあなたも言っていたでししょう?

ソーナ
ソーナ

……。

琴の話と仏道の話も繋がっているのですか……?

お釈迦さん
お釈迦さん

知識(答え)を得るだけでなく経験も必要ですって言っていたでしょう?

ソーナ
ソーナ

はい。確かにいいました。

お釈迦さん
お釈迦さん
何かしらの知識や答えをつかみ取ることが、仏道や修行において正解だと決めつけていませんか?
ソーナ
ソーナ

なんだか、よく分からなくなってきてしまいました。

ソーナ
ソーナ

本当に私、こんなんで大丈夫なんでしょうか?

ちゃんと心得ているのでしょうか?

お釈迦さん
お釈迦さん

あなたはちゃんと心得ていますよ。

琴の話ができたあなたなら、大丈夫です。

弟子1
弟子1

師匠がここまで言ってくれるのですから、大丈夫ですよ。

弟子2
弟子2

そうですよ。もし、自分に自信がないのなら、まずはお釈迦さんほとけを、お釈迦さんししょうの言葉を、そして私たちお釈迦さんの弟子達なかまを信じてみてはどうですか?

ソーナ
ソーナ

……そうですね。師匠や皆さんがそこまで言ってくださるのなら、私、もう少しだけ頑張ってみます。

弟子2
弟子2

まずは肩の力を抜きましょうね(笑)

ソーナ
ソーナ

あっ、はい(笑)

 

続く……

(二五四)如是我聞。一時佛住王舍城迦蘭陀竹園。爾時尊者二十億耳。住耆闍崛山。常精勤修習菩提分法。時尊者二十億耳獨靜禪思。而作是念。於世尊弟子精勤聲聞中。我在其數。然我今日未盡諸漏。我是名族姓子。多饒財寶我今寧可還受五欲。廣行施作福。爾時世尊知二十億耳心之所念。告一比丘。汝等今往二十億耳所。告言世尊呼汝。是一比丘。受佛教已。往詣二十億耳所。語言。世尊呼汝。二十億耳聞彼比丘稱大師命。即詣世尊所。稽首禮足。退住一面。爾時世尊告二十億耳。汝實獨靜禪思作是念。世尊精勤修學聲聞中。我在其數。而今未得漏盡解脱。我是名族姓子。又多錢財。我寧可還俗受五欲樂。廣施作福耶。時二十億耳作是念。世尊已知我心。驚怖毛竪。白佛言。實爾世尊。佛告二十億耳。我今問汝。隨意答我。二十億耳。汝在俗時。善彈琴不。答言如是。世尊復問。於意云何。汝彈琴時。若急其絃。得作微妙和雅音不。答言不也。世尊復問。云何若緩其絃。寧發微妙和雅音不。答言不也。世尊復問。云何善調琴絃。不緩不急。然後發妙和雅音不。答言。如是世尊。佛告二十億耳。精進太急増其掉悔。精進太緩令人懈怠。是故汝當平等修習攝受。莫著莫放逸莫取相。時尊者二十億耳聞佛所説。歡喜隨喜。作禮而去
(大正No.99, 2巻62頁b段22行-c段20行)

SAT大正新脩大藏經テキストデータベースより

国訳一切経阿含部1巻210頁

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