女性修行者に誘惑されるアーナンダ(阿難)の話

ちしょう
ちしょう

本記事は「雑阿含経巻第21-564」の内容を基に作りました。

女性修行者の誘惑

他の修行者3
他の修行者3

はぁ……。私は恋をしてしまった。あの人が好きで好きでたまらない。この気持ち一体どうすればいいのでしょうか。

弟子1
弟子1

一体どうされたのですか?

溜息が向こうのほうまで聞こえていましたよ。

他の修行者3
他の修行者3

あ、いえ。なんでもありません。気分がすぐれないもので。

弟子2
弟子2

それはいけませんね。今日はもうお休みになられたほうがよいのではないですか?

他の修行者3
他の修行者3

どうぞ、気にしないで———。

その恰好は、あなた達はお釈迦さんの弟子の方ですか?

弟子1
弟子1

そうですよ。

他の修行者3
他の修行者3

もしかして、アーナンダさんをご存じありませんか?

弟子2
弟子2

ええ。知っています。お世話になってますから。

他の修行者3
他の修行者3

そうですか。いえ、あの胸が痛くて。

弟子2
弟子2

それはいけませんね。

他の修行者3
他の修行者3

そこで是非アーナンダさんに私の所へお見舞いに来て下さらないかと思うのです。

弟子1
弟子1

お見舞いですか? アーナンダさんに?

他の修行者3
他の修行者3

そうしたら、きっとこの病いもよくなるでしょう。明日だけでいいのです。だからどうか———どうかお願いします。

弟子2
弟子2

アーナンダさん、なんていうかな……。

他の修行者3
他の修行者3

私は体調がすぐれないので、これで失礼致します。

後ほど、正式に使い者を送ります。

是非、是非とも頼みましたよ!


ナレーション
ナレーション

それからしばらくして……

弟子1
弟子1

ということがありまして……。アーナンダさん、どうしましょう。

アーナンダ
アーナンダ

私にお見舞いですか? 他の所の女性修行者から?

弟子2
弟子2

お釈迦さんの身の周りの世話もされているから、どうかとは思ったのですが、こちらが返事をする前に体調がすぐれないと帰ってしまいまして……。

アーナンダ
アーナンダ

んー。お釈迦さんの身の周りの世話はをしていますから、看病も含めて心得ていますが……。お見舞いですか……。

弟子1
弟子1

本人はアーナンダさんに来てもらったら、きっと病気が良くなると言ってました。

アーナンダ
アーナンダ

そこまで言われては……。ほっとくわけにもいかないでしょう。

分かりました。明日、彼女の所へお見舞いに行ってきます。

弟子1
弟子1

よろしくお願いします。

翌日、アーナンダは女性修行者の所にお見舞いに行きました。
他の修行者3
他の修行者3

今日はアーナンダさんがお見舞いに来てくれる。彼なら絶対に来てくれるわ。これは二人っきりになるチャンスだわ。

 

この機会を絶対の逃さない。

彼の気を惹くにはどうしたらいいでしょうか……。

ナレーション
ナレーション

彼女は衣服を全て脱ぐと、そのまま寝室の布団に潜り込みました。


アーナンダ
アーナンダ

失礼します。

他の修行者3
他の修行者3

どうぞ。中へお入り下さい。

アーナンダ
アーナンダ

お加減はいかがですか?

昨日私共の精舎しょうじゃ(修行道場)にお越しになった際、体調を悪くしたと聞いています。

他の修行者3
他の修行者3

はい。ちょっと熱っぽくなっているかもしれません。

アーナンダ
アーナンダ

そうですね。少し顔が赤いですね。

他の修行者3
他の修行者3

すみませんが、そちら水をもってきて、いただけますでしょうか?

アーナンダ
アーナンダ

はい。これですね。どうぞ———

他の修行者3
他の修行者3

ありがとうございます。

アーナンダ
アーナンダ

!?

アーナンダ
アーナンダ

え? あなた服はどうしました?

他の修行者3
他の修行者3

大丈夫です。そんな背を向けずに、こちらを向いてください。

目を閉じないでこちらを見てください。

アーナンダ
アーナンダ

いいや。早く服を着てください!

他の修行者3
他の修行者3

私は承知の上です。私に恥をかかせないでください。

アーナンダ
アーナンダ

恥をかくって何ですか?

そのような淫らな行為を行う事。

それこそ恥を書くという事ですよ。

他の修行者3
他の修行者3

私はあなたが好きなのです。お願いですから私を見てください。

アーナンダ
アーナンダ

ダメなものはダメです。一時の感情で動いてはなりません。

他の修行者3
他の修行者3

私に魅力はありませんか……?

アーナンダ
アーナンダ

魅力があるとかないとかの話ではありません。自分の感情や想いだけで動かないでください。

 

そのような事をされて私の気持ちが動くと思うのですか?

もしそうだとするならば、それは少し傲慢ではないですか?

他の修行者3
他の修行者3

私が傲慢というのですか?

アーナンダ
アーナンダ

今のあなたにあるのは、自分の気持ちだけです。

相手の気持ちをまるで考えていない。

他の修行者3
他の修行者3

私はあなたの事を想っています。愛してしまったのです。

アーナンダ
アーナンダ

私は残念でなりません。もし私の事を少しでも考えて下さるのなら、服を着て私の話を聞いてくれませんか?

アーナンダの説得

ナレーション
ナレーション

彼女は服を着てアーナンダさんの話を聞きました。 話をするうちに彼女は自分の行動を恥じ、後悔の念に苛まれました。

他の修行者3
他の修行者3

ごめんなさい。私は本当にやってはいけない事をしてしまいました。もうあなたに合わせる顔がありません。

 

こんな淫らな私は……、もうどうしたら……。

本当にごめんなさい。

アーナンダ
アーナンダ

あなたはもう自覚したのでしょう?

他の修行者3
他の修行者3

ええ。私はこんなに淫欲にまみれた汚い人間です。

こんな私なんて、もう、消してしまいたい……。

アーナンダ
アーナンダ

自分を卑下するのはよしなさい。

あなたはもう自覚したと言いました。

他の修行者3
他の修行者3

はい。

アーナンダ
アーナンダ

あなたは食事を取るでしょう?

他の修行者3
他の修行者3

はい。それが何か……?

アーナンダ
アーナンダ

私達、お釈迦さんの弟子達は、食の量を知り、よく考えて食べます。それはこの身を保つため、健康に生きる為、飢えという病いを治す為、仏道修行をする為です。

他の修行者3
他の修行者3

欲望にまみれた私とは違いますね……。

アーナンダ
アーナンダ

そうではありません。食欲も欲です。淫欲も、愛欲も、傲慢も欲なのです。考えてみてください。食事を取ることでそういった欲望に結びつく力にもなれば、仏道修行のための力にもなるのです。

アーナンダ
アーナンダ

例えば、油を車輪に塗るのは何故ですか?

他の修行者3
他の修行者3

車輪がうまく回転するように油をさしますね。

アーナンダ
アーナンダ

そうです。車輪にさす潤滑油です。

車輪をうまく回転させるために、運搬するために車軸に油をさしますね。

アーナンダ
アーナンダ

もし、その油を車輪全体に使えば、どうなりますか?

他の修行者3
他の修行者3

地面を空回りしてしまうと思います。

油ってヌルヌルで、滑りますし……。

アーナンダ
アーナンダ

同じ油でも使い方が違えばどうなるか、わかるでしょう?

他の修行者3
他の修行者3

一方は車輪が地面を空回りして車が動きませんが、一方はスムーズに車輪が動き、車が動きます。

アーナンダ
アーナンダ

そうです。つまり欲望もこの油と同じことなのです。

 

その欲があなたを空回りさせることもあれば、あなたをスムーズに動かす力にもなるのです。

他の修行者3
他の修行者3

それでいいのですか?

私は許されていいのですか?

アーナンダ
アーナンダ

何度もいいますが、あなたは自覚したのでしょう?

他の修行者3
他の修行者3

はい。

アーナンダ
アーナンダ

食欲を自覚するからこそ、量を知り、そしてこの身を保ち、仏道修行の力としているのです。言い換えれば、私達はこうして食欲によって食欲を断ずるのです。

他の修行者3
他の修行者3

でも……。

アーナンダ
アーナンダ

あなたは、己の傲慢を知り、自覚した。

そして私の話に耳を傾けてくれた。そうでしょう?

他の修行者3
他の修行者3

はい。その通りです。

アーナンダ
アーナンダ

それは言い換えれば「傲慢さによって傲慢を断ずる」ということです。あなたはそれを実践してくれたのですよ。

アーナンダ
アーナンダ

同じように愛欲を知り、そして淫欲を知りました。

自覚したのでしょう?

 

他の修行者3
他の修行者3

はい。

アーナンダ
アーナンダ

「愛欲によって愛欲を断じ、淫欲によって淫欲を断ずる」

同じことですよ。

他の修行者3
他の修行者3

私は許されていいのですか?

アーナンダ
アーナンダ

気づいたのであれば、後はどうしたらいいか……、わかりますね?

他の修行者3
他の修行者3

はい。私は自らの過ちに気づき、そしてその過ちを悔いています。でもアーナンダさんのおかげで、自らの過ちを見ることができました。自覚し、自らの過ちを知ることができました。

他の修行者3
他の修行者3

ここに懺悔さんげ致します。

アーナンダ
アーナンダ

あなた今、本当に自らを罪を見て、自らの罪を知りました。

私は今あなたの懺悔さんげを受けました。

 

ならばこの先、これはあなたにとって良い教え(かい)となるでしょう。

他の修行者3
他の修行者3

はい。

アーナンダ
アーナンダ

今後、これがあなたにとって良き力となるのです。

他の修行者3
他の修行者3

ありがとうございます。

補足情報

  • 出典:雑阿含経巻第21-564

(五六四)如是我聞。一時佛住舍衞國祇樹給孤獨園。尊者阿難。亦在彼住。時有異比丘尼。於尊者阿難所。起染著心。遣使白尊者阿難。我身遇病苦。唯願尊者哀愍見看。尊者阿難晨朝著衣持鉢。往彼比丘尼所。彼比丘尼。遥見尊者阿難來。露身體臥床上。尊者阿難。遥見彼比丘尼身。即自攝𣫍諸根。迴身背住。彼比丘尼。見尊者阿難攝*𣫍諸根迴身背住。即自慚愧。起著衣服。敷坐具。出迎尊者阿難。請令就座稽首禮足。退住一面。時尊者阿難爲説法言。姊妹。如此身者。穢食長養。憍慢長養。愛所長養。婬欲長養。姊妹。依穢食者。當斷穢食。依於慢者。當斷憍慢。依於愛者。當斷愛欲。姊妹。云何名依於穢食當斷穢食。謂聖弟子。於食計數思惟而食。無著樂想。無憍慢想。無摩拭想。無莊嚴想。爲持身故。爲養活故。治飢渇病故。攝受梵行故。宿諸受令滅。新諸受不生。崇習長養。若力若樂若觸。當如是住。譬如商客。以酥油膏。以膏其車。無染著想。無憍慢想。無摩拭想。無莊嚴想。爲運載故。如病瘡者。塗以*酥油。無著樂想。無憍慢想。無摩拭想。無莊嚴想。爲瘡愈故。如是聖弟子。計數而食。無染著想。無憍慢想。無摩拭想。無莊嚴想。爲養活故。治飢渇故。攝受梵行故。宿諸受離。新諸受不起。若力若樂若無罪觸安隱住。姊妹。是名依食斷食。依慢斷慢者。云何依慢斷慢。謂弟子聞。某尊者某尊者弟子盡諸有漏。無漏心解脱慧解脱。現法自知作證。我生已盡。梵行已立。所作已作。自知不受後有。聞已作是念。彼聖弟子盡諸有漏。乃至自知不受後有。我今何故不盡諸有漏。何故不自知不受後有。當於爾時。則能斷諸有漏。乃至自知不受後有。姊妹。是名依慢斷慢。姊妹。云何依愛斷愛。謂聖弟子聞。某尊者某尊者弟子盡諸有漏。乃至自知不受後有。我等何不盡諸者漏乃至自知不受後有。彼於爾時。能斷諸有漏。乃至自知不受後有。姉妹。是名依愛斷愛。姊妹。無所行者。斷截婬欲。和合橋梁。尊者阿難説是法時。彼比丘尼。遠塵離垢。得法眼淨。彼比丘尼見法得法覺法入法。度狐疑。不由於他。於正法律。心得無畏。禮尊者阿難足。白尊者阿難。我今發露悔過。愚癡不善脱作如是不流類事。今於尊者阿難所。自見過自知過。發露懺悔哀愍故。尊者阿難。語比丘尼。汝今眞實。自見罪自知罪。愚癡不善。汝自知作不類之罪。汝今自知自見而悔過。於未來世。得具足戒。我今受汝悔過。哀愍故。令汝善法増長。終不退滅所以者何。若有自見罪自知罪。能悔過者。於未來世。得具足戒。善法増長。終不退*滅。尊者阿難爲彼比丘尼。種種説法。示教照喜已。從*座起去
(T0099_.02.0148a13-c10)

SAT大正新脩大藏經テキストデータベースより

  • 国訳一切経2巻150頁

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