本記事は「雑阿含経巻第21-564」の内容を基に作りました。
女性修行者の誘惑
はぁ……。私は恋をしてしまった。あの人が好きで好きでたまらない。この気持ち一体どうすればいいのでしょうか。
一体どうされたのですか?
溜息が向こうのほうまで聞こえていましたよ。
あ、いえ。なんでもありません。気分がすぐれないもので。
それはいけませんね。今日はもうお休みになられたほうがよいのではないですか?
どうぞ、気にしないで———。
その恰好は、あなた達はお釈迦さんの弟子の方ですか?
そうですよ。
もしかして、アーナンダさんをご存じありませんか?
ええ。知っています。お世話になってますから。
そうですか。いえ、あの胸が痛くて。
それはいけませんね。
そこで是非アーナンダさんに私の所へお見舞いに来て下さらないかと思うのです。
お見舞いですか? アーナンダさんに?
そうしたら、きっとこの病いもよくなるでしょう。明日だけでいいのです。だからどうか———どうかお願いします。
アーナンダさん、なんていうかな……。
私は体調がすぐれないので、これで失礼致します。
後ほど、正式に使い者を送ります。
是非、是非とも頼みましたよ!
それからしばらくして……
ということがありまして……。アーナンダさん、どうしましょう。
私にお見舞いですか? 他の所の女性修行者から?
お釈迦さんの身の周りの世話もされているから、どうかとは思ったのですが、こちらが返事をする前に体調がすぐれないと帰ってしまいまして……。
んー。お釈迦さんの身の周りの世話はをしていますから、看病も含めて心得ていますが……。お見舞いですか……。
本人はアーナンダさんに来てもらったら、きっと病気が良くなると言ってました。
そこまで言われては……。ほっとくわけにもいかないでしょう。
分かりました。明日、彼女の所へお見舞いに行ってきます。
よろしくお願いします。
翌日、アーナンダは女性修行者の所にお見舞いに行きました。
今日はアーナンダさんがお見舞いに来てくれる。彼なら絶対に来てくれるわ。これは二人っきりになるチャンスだわ。
この機会を絶対の逃さない。
彼の気を惹くにはどうしたらいいでしょうか……。
彼女は衣服を全て脱ぐと、そのまま寝室の布団に潜り込みました。
失礼します。
どうぞ。中へお入り下さい。
お加減はいかがですか?
昨日私共の精舎(修行道場)にお越しになった際、体調を悪くしたと聞いています。
はい。ちょっと熱っぽくなっているかもしれません。
そうですね。少し顔が赤いですね。
すみませんが、そちら水をもってきて、いただけますでしょうか?
はい。これですね。どうぞ———
ありがとうございます。
!?
え? あなた服はどうしました?
大丈夫です。そんな背を向けずに、こちらを向いてください。
目を閉じないでこちらを見てください。
いいや。早く服を着てください!
私は承知の上です。私に恥をかかせないでください。
恥をかくって何ですか?
そのような淫らな行為を行う事。
それこそ恥を書くという事ですよ。
私はあなたが好きなのです。お願いですから私を見てください。
ダメなものはダメです。一時の感情で動いてはなりません。
私に魅力はありませんか……?
魅力があるとかないとかの話ではありません。自分の感情や想いだけで動かないでください。
そのような事をされて私の気持ちが動くと思うのですか?
もしそうだとするならば、それは少し傲慢ではないですか?
私が傲慢というのですか?
今のあなたにあるのは、自分の気持ちだけです。
相手の気持ちをまるで考えていない。
私はあなたの事を想っています。愛してしまったのです。
私は残念でなりません。もし私の事を少しでも考えて下さるのなら、服を着て私の話を聞いてくれませんか?
アーナンダの説得
彼女は服を着てアーナンダさんの話を聞きました。 話をするうちに彼女は自分の行動を恥じ、後悔の念に苛まれました。
ごめんなさい。私は本当にやってはいけない事をしてしまいました。もうあなたに合わせる顔がありません。
こんな淫らな私は……、もうどうしたら……。
本当にごめんなさい。
あなたはもう自覚したのでしょう?
ええ。私はこんなに淫欲にまみれた汚い人間です。
こんな私なんて、もう、消してしまいたい……。
自分を卑下するのはよしなさい。
あなたはもう自覚したと言いました。
はい。
あなたは食事を取るでしょう?
はい。それが何か……?
私達、お釈迦さんの弟子達は、食の量を知り、よく考えて食べます。それはこの身を保つため、健康に生きる為、飢えという病いを治す為、仏道修行をする為です。
欲望にまみれた私とは違いますね……。
そうではありません。食欲も欲です。淫欲も、愛欲も、傲慢も欲なのです。考えてみてください。食事を取ることでそういった欲望に結びつく力にもなれば、仏道修行のための力にもなるのです。
例えば、油を車輪に塗るのは何故ですか?
車輪がうまく回転するように油をさしますね。
そうです。車輪にさす潤滑油です。
車輪をうまく回転させるために、運搬するために車軸に油をさしますね。
もし、その油を車輪全体に使えば、どうなりますか?
地面を空回りしてしまうと思います。
油ってヌルヌルで、滑りますし……。
同じ油でも使い方が違えばどうなるか、わかるでしょう?
一方は車輪が地面を空回りして車が動きませんが、一方はスムーズに車輪が動き、車が動きます。
そうです。つまり欲望もこの油と同じことなのです。
その欲があなたを空回りさせることもあれば、あなたをスムーズに動かす力にもなるのです。
それでいいのですか?
私は許されていいのですか?
何度もいいますが、あなたは自覚したのでしょう?
はい。
食欲を自覚するからこそ、量を知り、そしてこの身を保ち、仏道修行の力としているのです。言い換えれば、私達はこうして食欲によって食欲を断ずるのです。
でも……。
あなたは、己の傲慢を知り、自覚した。
そして私の話に耳を傾けてくれた。そうでしょう?
はい。その通りです。
それは言い換えれば「傲慢さによって傲慢を断ずる」ということです。あなたはそれを実践してくれたのですよ。
同じように愛欲を知り、そして淫欲を知りました。
自覚したのでしょう?
はい。
「愛欲によって愛欲を断じ、淫欲によって淫欲を断ずる」
同じことですよ。
私は許されていいのですか?
気づいたのであれば、後はどうしたらいいか……、わかりますね?
はい。私は自らの過ちに気づき、そしてその過ちを悔いています。でもアーナンダさんのおかげで、自らの過ちを見ることができました。自覚し、自らの過ちを知ることができました。
ここに懺悔致します。
あなた今、本当に自らを罪を見て、自らの罪を知りました。
私は今あなたの懺悔を受けました。
ならばこの先、これはあなたにとって良い教え(戒)となるでしょう。
はい。
今後、これがあなたにとって良き力となるのです。
ありがとうございます。
補足情報
- 出典:雑阿含経巻第21-564
(五六四)如是我聞。一時佛住舍衞國祇樹給孤獨園。尊者阿難。亦在彼住。時有異比丘尼。於尊者阿難所。起染著心。遣使白尊者阿難。我身遇病苦。唯願尊者哀愍見看。尊者阿難晨朝著衣持鉢。往彼比丘尼所。彼比丘尼。遥見尊者阿難來。露身體臥床上。尊者阿難。遥見彼比丘尼身。即自攝𣫍諸根。迴身背住。彼比丘尼。見尊者阿難攝*𣫍諸根迴身背住。即自慚愧。起著衣服。敷坐具。出迎尊者阿難。請令就座稽首禮足。退住一面。時尊者阿難爲説法言。姊妹。如此身者。穢食長養。憍慢長養。愛所長養。婬欲長養。姊妹。依穢食者。當斷穢食。依於慢者。當斷憍慢。依於愛者。當斷愛欲。姊妹。云何名依於穢食當斷穢食。謂聖弟子。於食計數思惟而食。無著樂想。無憍慢想。無摩拭想。無莊嚴想。爲持身故。爲養活故。治飢渇病故。攝受梵行故。宿諸受令滅。新諸受不生。崇習長養。若力若樂若觸。當如是住。譬如商客。以酥油膏。以膏其車。無染著想。無憍慢想。無摩拭想。無莊嚴想。爲運載故。如病瘡者。塗以*酥油。無著樂想。無憍慢想。無摩拭想。無莊嚴想。爲瘡愈故。如是聖弟子。計數而食。無染著想。無憍慢想。無摩拭想。無莊嚴想。爲養活故。治飢渇故。攝受梵行故。宿諸受離。新諸受不起。若力若樂若無罪觸安隱住。姊妹。是名依食斷食。依慢斷慢者。云何依慢斷慢。謂弟子聞。某尊者某尊者弟子盡諸有漏。無漏心解脱慧解脱。現法自知作證。我生已盡。梵行已立。所作已作。自知不受後有。聞已作是念。彼聖弟子盡諸有漏。乃至自知不受後有。我今何故不盡諸有漏。何故不自知不受後有。當於爾時。則能斷諸有漏。乃至自知不受後有。姊妹。是名依慢斷慢。姊妹。云何依愛斷愛。謂聖弟子聞。某尊者某尊者弟子盡諸有漏。乃至自知不受後有。我等何不盡諸者漏乃至自知不受後有。彼於爾時。能斷諸有漏。乃至自知不受後有。姉妹。是名依愛斷愛。姊妹。無所行者。斷截婬欲。和合橋梁。尊者阿難説是法時。彼比丘尼。遠塵離垢。得法眼淨。彼比丘尼見法得法覺法入法。度狐疑。不由於他。於正法律。心得無畏。禮尊者阿難足。白尊者阿難。我今發露悔過。愚癡不善脱作如是不流類事。今於尊者阿難所。自見過自知過。發露懺悔哀愍故。尊者阿難。語比丘尼。汝今眞實。自見罪自知罪。愚癡不善。汝自知作不類之罪。汝今自知自見而悔過。於未來世。得具足戒。我今受汝悔過。哀愍故。令汝善法増長。終不退滅所以者何。若有自見罪自知罪。能悔過者。於未來世。得具足戒。善法増長。終不退*滅。尊者阿難爲彼比丘尼。種種説法。示教照喜已。從*座起去
(T0099_.02.0148a13-c10)
- 国訳一切経2巻150頁
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