天眼の異名は失敗を活かした洞察力あった!?「アヌルッダ(阿那律)の不眠不休の誓いと洞察」

ちしょう
ちしょう

本記事は「増一阿含経巻第31-5」の内容を基に作っています。

アヌルッダの不眠不休の誓い

説法中の居眠り

お釈迦さん
お釈迦さん

(只今、説法中)無常無常苦苦即非我非我者亦非我所如是觀者名眞實正觀如是受想行識無常無常苦苦即非我非我者亦非我所如是觀者名眞實觀聖弟子……

アヌルッダ
アヌルッダ

zzz

お釈迦さん
お釈迦さん

ん?

じぃーーーーっ……

アヌルッダ
アヌルッダ

zzz

弟子1
弟子1

ツンツン >アヌルッダさん

弟子2
弟子2

(小声)アヌルッダさん! おきて、アヌルッダさん!

アヌルッダ
アヌルッダ

zzz

お釈迦さん
お釈迦さん

……、まぁ、続けましょうか。

 

(只今、説法中)受法快睡眠 意無有錯亂 賢聖所説法 智者之所樂 猶如深淵水 澄清無瑕穢 如是聞法人 清淨心樂受 亦如大方石 風所不能動 如是得毀譽 心無有傾動……

お釈迦さん
お釈迦さん

あっ、あなた達。アヌルッダさんに伝えておいてください。

「後で私の所へ来るように」と。

弟子1
弟子1

え? 私達がですか?

りょ、了解です。

弟子2
弟子2

はい。わかりました……

数時間後……

お釈迦さんの説教

弟子1
弟子1

失礼します。

弟子2
弟子2

師匠、アヌルッダさんを連れてきました。

お釈迦さん
お釈迦さん

はい。ご苦労さまです。

お釈迦さん
お釈迦さん

さて、アヌルッダさん。

私はあなたに聞きたいことがあります。

アヌルッダさん
アヌルッダ

はい……。

お釈迦さん
お釈迦さん

何故、あなたは私の下に、弟子入りしたのですか?

アヌルッダさん
アヌルッダ

えっ、弟子入りしたきっかけですか?

そんな昔のことが今の私とどう関係が?

お釈迦さん
お釈迦さん

よく思い出してください。

アヌルッダさん
アヌルッダ

えっと、あの頃の私には、大きな悩みがありました。

その迷いを解決するにはどうしたらいいかと考え、そこで師匠と出会い、弟子入りをお願いしました。

お釈迦さん
お釈迦さん

その悩みや迷いは、苦しかったのではなかったですか?

アヌルッダさん
アヌルッダ

ええ、もちろん。迷いや悩みですからね。苦しくないわけがないじゃないですか。

お釈迦さん
お釈迦さん

それで、あなたは、悩みや迷い、苦しみは、解決されたのですか?

アヌルッダさん
アヌルッダ

えーっと。正直にいいますと、あの時、弟子入りを認められたら、それだけで、何だかほっとしちゃいまして……。

アヌルッダ
アヌルッダ

迷いや悩みって言っても、あの時は、何も答えがなかったですし、見当もつきませんでしたからね。そんな状態では、不安で仕方がないですよね。苦しかったです。

 

ですが、師匠についていけば何とかなると思ったので……。

お釈迦さん
お釈迦さん

もう一度、聞きます。

あなたは、悩みや迷い、苦しみを、解決されたのですか?

アヌルッダさん
アヌルッダ

私は……? え、あれ?

どうなんでしょう。

アヌルッダ
アヌルッダ

「私は悩みや迷い、苦しみを解決しました」というのは、何か違うと思います。

お釈迦さん
お釈迦さん

そうですか。少し安心しました。

では、あなたは、悩みや迷い、苦しみを解決していない、と。

お釈迦さん
お釈迦さん

それで、何故、あなたは私の下に、弟子入りしたのでしたか?

アヌルッダさん
アヌルッダ

悩みがあり、迷いがあり、苦しみがありました。それらを解決したくて、私は、弟子入りしました。

お釈迦さん
お釈迦さん

では、何故、私が教えを説いている時、居眠りをするですか?

アヌルッダ
アヌルッダ

いや、えーっと、その。聞こうとはするのですが、聞いているとだんだん眠くなってきてしまうというか……。

アヌルッダ
アヌルッダ

いや、でも……、はい。

そう……ですよね……。

お釈迦さん
お釈迦さん

……。アヌルッダさん。何か申し開きしたい事はありますか?

アヌルッダさん
アヌルッダ

いいえ。申し訳ありません!

アヌルッダ
アヌルッダ

私、アヌルッダは誓います。これからは眠りません。

師の前で……、決して……。

お釈迦さん
お釈迦さん

よろしい。わかっているならそれでいいのですよ。

アヌルッダさん
アヌルッダ

本当に申し訳ありませんでした。

その後……

眠らないアヌルッダ

弟子1
弟子1

そういえば、こないだアヌルッダさんが居眠りしていた件だけど、正直、私も、話をただ聞いていると、たまに、眠くなることあるんだけど?

弟子2
弟子2

まぁ、そんな時もありますよね。でも、さすがに何度も続いたら、ただの居眠りで済まないんじゃないの?

弟子1
弟子1

まぁ、居眠りも続けば、それは、怠けってことになるのかな。

弟子2
弟子2

しかも、お釈迦さんの教えって、アヌルッダさんのいう苦しみの解決と無関係じゃないからね。

弟子1
弟子1

ああ、師匠も苦しみを解決したくて、家を出た経緯があるもんね。

弟子2
弟子2

ほら、師匠の説法が始まるよ。

お釈迦さん
お釈迦さん

(只今、説法中)

アヌルッダさん
アヌルッダ

師の前で誓ったんだ……。

決して眠らないぞ。決して……

弟子1
弟子1

アヌルッダさんも起きてるね。

弟子2
弟子2

そだね。よかった、よかった。

その夜

 

弟子1
弟子1

zzz

弟子2
弟子2

zzz

アヌルッダさん
アヌルッダ

決して眠らないぞ。決して……

数日後……
アヌルッダさん
アヌルッダ

決して眠らないぞ。決して……

弟子2
弟子2

うわっ!? ちょっとアヌルッダさん。大丈夫ですか!?

弟子1
弟子1

何か目の焦点が定まっていないような……。

朦朧としてるじゃないですか。

一体、どうしたんですか!?

アヌルッダさん
アヌルッダ

いや、絶対、眠らないので……。

弟子2
弟子2

まさか……。あれから一睡もしてないんですか!?

弟子1
弟子1

いや。これ、ダメでしょ……。

弟子2
弟子2

師匠! 師匠!

お釈迦さん
お釈迦さん

どうしました?

弟子2
弟子2

アヌルッダさんが!

その! ……あの!

全く眠っていません!

お釈迦さん
お釈迦さん

そうですね。

最近、私の説法中、全然眠っている所を見ないですね。

弟子1
弟子1

じゃなくてですね……。

あれから、一睡もしていないみたいなんですよ。

お釈迦さん
お釈迦さん

!?

あれからって、まさか、説教した、あの日からですか?

弟子2
弟子2

はい!

それで、目が! 目が!

よくみたら朦朧として!

お釈迦さん
お釈迦さん

アヌルッダ!

アヌルッダ!

アヌルッダさん
アヌルッダ

……ん?

あ……、何でしょうか、師匠?

お釈迦さん
お釈迦さん

ちょっ、目が……。大丈夫ですか!?

眠っていないって本当ですか!?

ちゃんと寝ないとダメじゃないですか!

アヌルッダさん
アヌルッダ

いや、しかし……私は眠らないと誓いました。師匠も眠ってはいけないと言ったじゃないですか!?

アヌルッダさん
アヌルッダ

もう、私は怠け者ではないのです。そして、二度と怠けへとつながることはしないと心に誓ったのです。

アヌルッダさん
アヌルッダ

そうです。惰眠を貪るわけにはいかないのです!

お釈迦さん
お釈迦さん

いや、そういう事では……。

アヌルッダさん
アヌルッダ

じゃぁ、居眠りするなって、あれは嘘だったのですか!?

お釈迦さん
お釈迦さん

いいですか。確かに眠りすぎは怠惰へとつながります。

しかし、やり過ぎはよくありません。

無理してもダメなんですよ。

お釈迦さん
お釈迦さん

私はいつも話しているじゃないですか。

「中道」という教えを。

アヌルッダさん
アヌルッダ

ここで「中道」と言われましても、私は師匠の前で誓ったのです。その誓いに反することなんてできません。

そんなの違うと思います!

弟子1
弟子1

あのさ、「中道」って何?

弟子2
弟子2

今、それどころじゃないから、後でね!? >弟子1

弟子2
弟子2

とりあえず、師匠、ここは、アヌルッダさんの眼を、お医者さんに診てもらったほうがよろしいのでは?

お釈迦さん
お釈迦さん

そうですね。急いでシヴァカさんを呼んで下さい!

弟子1
弟子1

シヴァカって誰です?

弟子2
弟子2

いつも診てくれるお医者さんだよ!

診察:医者のシヴァカ

弟子1
弟子1

シヴァカさ~ん。

シヴァカ
シヴァカ

はい? なんでしょうか?

お釈迦さん
お釈迦さん

シヴァカさん。

すみませんが、アヌルッダさんの目を診てやってくれませんか?

シヴァカ
シヴァカ

診察ですね。ではアヌルッダさん。目を見せてくださ~い。

アヌルッダさん
アヌルッダ

いや、私は何も悪くないし、どこも悪くないはずです!

シヴァカ
シヴァカ

アヌルッダさん。これ、見えますかぁ?

アヌルッダさん
アヌルッダ

いや、だから何も悪くないって言っているじゃないですか!?

シヴァカ
シヴァカ

なるほど。そうですね。う~ん。

シヴァカ
シヴァカ

アヌルッダさん。あなた、ちゃんと睡眠とってますか?

アヌルッダさん
アヌルッダ

眠りは怠惰へとつながります。

私は怠惰という悪へとつながる眠りに耐えているのです。

悪いことなど一切していないのです。

シヴァカ
シヴァカ

う~ん。つまり、睡眠をとってないってことですね。

シヴァカ
シヴァカ

あのぉ、お釈迦さん。

お釈迦さん
お釈迦さん

はい。どうでしょうか。彼の眼は大丈夫ですか?

シヴァカ
シヴァカ

いいえ、率直に言いますと、よくありません。

視力も大分弱っているようです。

このままでは、失明の恐れもあります。

弟子2
弟子2

ならば、早く治療してあげてください!

シヴァカ
シヴァカ

いや、治療というか……。

まず根本的な原因として、睡眠をとらないからですよ。

シヴァカ
シヴァカ

眠らないことには、手の施しようがありません。

少しでも寝てくれれば、治す努力は致しましょう。

弟子1
弟子1

ですよね……

お釈迦さん、説得を試みる

お釈迦さん
お釈迦さん

アヌルッダさん。

お医者さんもこう言っていることですし、ちゃんと寝てください。

アヌルッダさん
アヌルッダ

いや、でも、しかし……

お釈迦さん
お釈迦さん

いいですか。アヌルッダさん。いいえ、アヌルッダ!

誰にでも、何にでも糧というものが必要なんです。

食べるから保つことができる。でも食べなければ滅んでしまう。

 

眼にとって、睡眠は食事なんです。糧なんです。

アヌルッダさん
アヌルッダ

いや、でも、師匠も納得されたじゃないですか。眠りませんと私が誓った時に、「よろしい」と言ってくれたじゃないですか!?

 

糧というなら、あの言葉こそが私の糧なんです。

あの言葉があったからこそ、私は眠らない誓いを立てた。

アヌルッダ
アヌルッダ

というとなんですか……。あの言葉は糧なんかではないというのですか!?  嘘だったんですか!?

お釈迦さん
お釈迦さん

私の言ったこと、つまり教えも、確かにあなたの糧となります。

だから私は、その教えを説いている最中に眠っていたあなたを見て、眠ってはいけないと言いました。

お釈迦さん
お釈迦さん

でも、今のあなたには、今のあなたの眼には、睡眠という糧が必要なんです。

アヌルッダさん
アヌルッダ

いや、眼には睡眠が糧ということはわかりますよ。

アヌルッダ
アヌルッダ

でも、何度も言いますが、あの時の言葉があったからこそ、眠らないという誓いを立てることができたんです。

アヌルッダ
アヌルッダ

師匠、あなたの弟子入りしたきっかけを、あの時の言葉が私に、思いださせてくれた。苦しみの解決をしたいとあの頃の気持ちを思い出させてくれた。

 

そんなことも忘れて、私はよく居眠りをしていた。怠け者です。だから私はこれ以上怠けてはいけないのです。これ以上、眠りによって、貴重な時間を割くことはできません。

 

怠けないことこそが、苦しみの解決、その糧となると、私はあの時気づいたのです。

アヌルッダ
アヌルッダ

それが間違いとでもいうのですか?

お釈迦さん
お釈迦さん

いえ、怠けないことは、苦しみの解決の糧となる。それは、間違いではありません。

 

アヌルッダさん
アヌルッダ

怠けないことが糧なんですよね!

私にとって、眠っていたことは失態だったのです。眠りは怠けへとつながるものです。

お釈迦さん
お釈迦さん

しかし、今のあなたには、眠ることが───

アヌルッダ
アヌルッダ

確かに、今、師匠がいったように、眠ることが目の糧ということは分かりますよ。

アヌルッダ
アヌルッダ

でも、矛盾するじゃないですか。

結局、どっちかしかできないじゃないですか。

 

どっちかが正しくてどっちかが間違えであるのであれば、私は「眠らないこと」を選びます!

お釈迦さん
お釈迦さん

いえ、ですから、いつも「中道」という教えを説いているじゃないですか。

 

どっちかしかできないとか、どっちが間違っているとか、そういう話ではないのです。

お釈迦さん
お釈迦さん

とにかく、お願いですから、寝てください。

今のあなたには眠ることが必要なのです。

アヌルッダさん
アヌルッダ

結局、寝ろってことでしょう?

どっちかってことじゃないですか!?

アヌルッダ
アヌルッダ

とにかく、私は眠りません。

失礼します!

お釈迦さん
お釈迦さん

ちょっと、アヌルッダ! アヌルッダ!

弟子2
弟子2

行ってしまいましたね……

弟子1
弟子1

ところで師匠、「中道」って何ですか?

 

お釈迦さん
お釈迦さん

えっ?

すみません。今はそれどころではないので……。

私はアヌルッダさんを追います。

弟子1
弟子1

すみません……

アヌルッダの洞察:お釈迦さんのいう幸福とは?

お袈裟を縫う

弟子1
弟子1

今日はお袈裟を縫わないといけないかなぁ……

弟子2
弟子2

私のも、大分ほつれてきちゃったよ。

弟子1
弟子1

なら、一緒にやりますか。

弟子1
弟子1

ん? 向こうでも誰か縫っているみたいだね。

弟子2
弟子2

アヌルッダさんだね。

大丈夫かな?

弟子1
弟子1

ん? どういうこと?

弟子2
弟子2

ああ、この前のことがあったじゃない。

弟子2
弟子2

あれからね。アヌルッダさんの目、どんどん悪くなっているって、今ではもう視えていないんじゃないかって聞いたんだけど……。

弟子1
弟子1

え? そうなの?

それって、お袈裟縫うのも至難の業じゃない?

弟子1
弟子1

私なんて、針に糸を通すところで、わりと苦戦しているのに……。

弟子2
弟子2

ちょっと、手伝いにいきません?

弟子1
弟子1

そだね

弟子1
弟子1

ってあれ? ちょっとまって。

誰かアヌルッダさんに声かけているよ。あれって師匠じゃない?

針に糸を通してほしい|福いの力

お釈迦さん
お釈迦さん

アヌルッダ。私がそれを通してあげますよ。

アヌルッダ
アヌルッダ

師匠!? もしかして、私、口に出していましたか?

お釈迦さん
お釈迦さん

何がですか?

アヌルッダ
アヌルッダ

誰でもいいから、この針に糸を通してくれないかなと……。

お釈迦さん
お釈迦さん

ならば、ちょうどいいじゃないですか。

ほら、貸してください。

アヌルッダ
アヌルッダ

いやいや、ちょっと待ってください。確かに誰でもいいとは言いましたが、私は師匠に向かって、そのような事を考えていたのではありません。

 

お釈迦さん
お釈迦さん

誰でもいいのでしょう?

私は例外ということですか?

アヌルッダ
アヌルッダ

そうですよ。例えば、世の人は皆、各々が、その幸福を追い求めています。その点、師匠は、その範疇に収まらないですよね?

アヌルッダ
アヌルッダ

私の為にこの針に糸を通してほしいとお願いしたのは、そうやって幸福を追い求めている凡人に対してのお願いです。

師匠みたいな特別な人へのお願いではありません。

お釈迦さん
お釈迦さん

アヌルッダさん。世の人は、皆、幸福を追い求めています。

でも、私ほど真剣に幸福を求めている人はいないでしょうね。

アヌルッダ
アヌルッダ

え? 師匠も幸福になることを追い求めているのですか?

お釈迦さん
お釈迦さん

それは、満足したり、忌み嫌ったりするわけじゃないんですよ。

今のあなたになら、伝わるのではないですか?

アヌルッダ
アヌルッダ

仏道もとより生死の海をわたる……。

それで、私はあの時の考えからも脱したか……。

お釈迦さん
お釈迦さん

この世の中には色々な力があります。

例えば、知力や腕力にあるいは権力や暴力など。

力とつくものは、数えきれません……。

 

でも仮にその中で最もすぐれているのは何かと問われれば、私はその福力さいわいのちからと答えるでしょうね。

その福力によって仏道が成りたっているのですから。

お釈迦さん
お釈迦さん

ほら。あなたの針。もう既に通ってますよ。

アヌルッダ
アヌルッダ

師匠……。ありがとうございます。

お釈迦さん
お釈迦さん

それでは。私はこれで失礼します。

お釈迦さんは退席しました。

福い(幸福)とは?|「中道」の教え(仏教用語)

弟子1
弟子1

アヌルッダさん。アヌルッダさん。

アヌルッダ
アヌルッダ

おや。お二方ふたかたじゃないですか。

この前はご迷惑おかけして申し訳ありません。

弟子2
弟子2

いえいえ。それよりも、今の話、どういうことですか?

アヌルッダ
アヌルッダ

聞かれてしまいましたか……。

アヌルッダ
アヌルッダ

あんなことがあって、私もだいぶ見え方が変わったと思っていたんですがね……。

弟子1
弟子1

いや、でも、師匠となんだか通じ合っている気がしましたよ。

アヌルッダ
アヌルッダ

そういっていただけると嬉しいですね。

アヌルッダ
アヌルッダ

まぁ、あの後、色々ありましたからね……。

アヌルッダ
アヌルッダ

あの、お二人はお気づきかも知れませんが、私、視力を失ってしまいました。お二人にも、また師匠にも色々と気遣ってもらったのに……。

弟子2
弟子2

そうだったんですね……

アヌルッダ
アヌルッダ

でも、そのおかげで、色々と見えてきたことがありました。

アヌルッダ
アヌルッダ

その話ならできますし、それが、お二人の疑問への応えになるかもしれないのですが……。

弟子2
弟子2

是非、聞かせてください。

アヌルッダ
アヌルッダ

お二人共、私の今回の一連の行動を思い出してみてください。

弟子1
弟子1

眠らなかったことですか?

アヌルッダ
アヌルッダ

それもそうですが、その前から、私はよく師匠の説法中に居眠りをしていましたよね?

弟子1
弟子1

そうですね。ほぼほぼ、眠っていましたよね(笑)

アヌルッダ
アヌルッダ

ハハハ……。改めて言われると恥ずかしいですね。

アヌルッダ
アヌルッダ

まぁ、とにかく、私はそれは良くないと思ったわけですよ。

居眠りばかりして、怠けていた。師匠の弟子になっただけで満足して、そこに甘んじていました。自分は緩み切っていたわけですね。

 

そこで、師匠はそんな私をいさめてくれました。

弟子2
弟子2

そうですね。怠けるのは良くないと知って、アヌルッダさんも舵を切りましたね。

アヌルッダ
アヌルッダ

そうなんですよ! 頑張らなければならないと舵を切ったわけです。

弟子1
弟子1

でも、言っては何ですが、アヌルッダさんはやりすぎでしたよ。

頑張るにもほどがあります。

アヌルッダ
アヌルッダ

そうなんですよね……。あの時の私は、頑張ることしか目に入らなかったんです。

弟子2
弟子2

でも頑張ることは悪いことではないですよ。

弟子1
弟子1

いやいや、頑張ることが体を壊すって悪い結果につながったじゃない。

弟子2
弟子2

でも怠けちゃダメでしょう?

弟子1
弟子1

そうだけど……。

気を張ってばっかりじゃ、無理がかかるでしょう。

たまには、休めることも必要だと思うけど?

アヌルッダ
アヌルッダ

お二人とも間違っていませんよ。その通りなんです。

だから師匠も「中道」と、言ってくれていたのですよね。

弟子1
弟子1

「中道」ですか?

それ私も聞きたかったんです。

 

それってどういうことなんですか?

アヌルッダ
アヌルッダ

すでにお二人でお話しているじゃないですか(笑)

アヌルッダ
アヌルッダ

例えば、運転している時を思い出してください。車でも自転車でも何でもいい。道を進んでいます。

 

アヌルッダ
アヌルッダ

進むにつれ、どんどん、左に寄っていってしまいました。もう少しで道から外れそうです。あなたはどうしますか?

 

弟子2
弟子2

そりゃ、右にハンドルを切ります。

アヌルッダ
アヌルッダ

はい。そうすれば道を外れることなく、進むことができます。

アヌルッダ
アヌルッダ

では、右に右にと寄ってしまい、道から外れそうになった場合、あなたはどうしますか?

 

弟子1
弟子1

そんなの、左に舵を切るに決まっているじゃないですか。

アヌルッダ
アヌルッダ

はい。そうすれば、道を外れることなく、進むことができます。

 

そうやって、右へ左へと舵を切る、つまり運転しているわけですね。

アヌルッダ
アヌルッダ

私達自身もまた、自己を運転しているわけです。

弟子2
弟子2

自己を運転?

アヌルッダ
アヌルッダ

先ほどの話に戻りますが、頑張ることと休むことは相対あいたいする言葉です。つまり、反対語ですね。

 

左と右が反対の意味であるように。

弟子1
弟子1

頑張ることは、力を入れること。

逆に休むことは、力を抜くこと。

弟子2
弟子2

頑張る(気を張る)⇔休む(気を緩める)

はい。反対の意味です。

アヌルッダ
アヌルッダ

仮にここでは、「頑張る」を左に舵を切ること、「休む」を右に舵を切ることに当てはめてみましょうか。

 

アヌルッダ
アヌルッダ

さて、ここで問題です。

人間、頑張って、頑張って、頑張りつづけたら、どうなりますか?

弟子1
弟子1

無理がかかる。まぁ、限界を超えてしまいますね。

 

アヌルッダ
アヌルッダ

その通りです。そして、あなたは道から外れそうになりました。

どうしますか?

弟子2
弟子2

右(休むこと)に舵を切ります……ね。

アヌルッダ
アヌルッダ

はい。そうすれば道を外れることなく、進むことができます。

 

弟子1
弟子1

なるほど。

だから休むことも大事なわけですね。

アヌルッダ
アヌルッダ

はい。

だからといって、休んでばかりいると……

弟子2
弟子2

怠け者になってしまうわけですね。

 

アヌルッダ
アヌルッダ

その通りです。そして、あなたは道から外れそうになりました。

どうしますか?

弟子1
弟子1

左(頑張ること)に舵を切りますね。

アヌルッダ
アヌルッダ

はい。そうすれば道を外れることなく、進むことができます。

 

弟子2
弟子2

なるほど。道を外れないよう、真ん中を進む。それが中道なんですね。

アヌルッダ
アヌルッダ

そこが難しいところなんですよね。

弟子2
弟子2

え?

だって、真ん中を走っていれば、道は外れないでしょう。

アヌルッダ
アヌルッダ

中道は、自己の運転です。

だから、実際に自分で自分を運転して、つまり自らの実体験から学ぶことが大事です。

アヌルッダ
アヌルッダ

例えば、私の場合、普段から気が抜けがちで、怠け癖がついていました。師匠に弟子入りした当初の想い、頑張ることを忘れて、休むことしか考えていませんでした。

 

それは、言い換えれば、右ハンドルしか切れない状態だったということですね。

弟子1
弟子1

右(休むこと)にしかハンドルがきれない。それはもはや、休むとは言わずに、サボりですね。

アヌルッダ
アヌルッダ

それを師匠に諫められて、頑張ることの大切さを思い出しました。

 

それ自体は良かったのです。おかげで怠けへと外れていた自分は、再び道を歩み始めたのですから。

アヌルッダ
アヌルッダ

でも、私は、頑張ることが正しさを知って、頑張ることしか目に入らなくなってしまいました。

 

つまり、左ハンドルしか切れなくなってしまったわけですね。

弟子1
弟子1

左(頑張ること)にしかハンドルがきれない。それはもはや、頑張りとは言わずに、無茶ですね。

アヌルッダ
アヌルッダ

一方にしかハンドルがきれないのであれば、いずれ道を外れるのは明白です。

アヌルッダ
アヌルッダ

要するに、一方に囚われて、偏っていってしまったわけです。

弟子2
弟子2

いや、だから、真ん中なら、道外れないじゃないですか?

アヌルッダ
アヌルッダ

ハンドルを真ん中に固定してしまったら、運転できないでしょう?

弟子2
弟子2

あ……、あれ?

弟子1
弟子1

むしろ、一番、運転できないね(笑)

まだ、右だけ、左だけでも、舵がきくほうがマシ。

アヌルッダ
アヌルッダ

私たちは、右にも、左にもハンドルを切れるからこそ、運転できるということを忘れてはいけません。

アヌルッダ
アヌルッダ

何が大事か、わかりますか?

弟子2
弟子2

頑張ることも大事。

弟子1
弟子1

休むことも大事。

アヌルッダ
アヌルッダ

頑張ることと休むことは、違うことなのに、同じく大事なわけですね。

弟子2
弟子2

となると、さいわいの話も、ただ単に幸福が満たされるってだけの話ってわけじゃないの……か?

弟子1
弟子1

まぁ、満足することだけが幸福かと言われれば、そうとは言えないと思うけど。

弟子2
弟子2

そう聞くと、「満足することが幸福ではない」と断言してしまいそうだけど……、「満足するような幸福を追求するな」って否定(忌み嫌う)しているわけでもないよね?

弟子1
弟子1

まぁ、満たされることを忌み嫌う(否定)ことで幸福になるかと言われれば、そうとは言えないと思うけど。

弟子2
弟子2

なんか、頭で考えるとややこしい……

アヌルッダ
アヌルッダ

んー。まぁ、そこは、きっと、各々が歩むことで見えてくる事なのでしょうね。


補足情報

より原文に近い形の記事があります。

  • お袈裟について
お袈裟:変化してきた僧侶の服装|「なぜお坊さんは、その恰好をしているのですか?」
元々、私達日本人僧侶が着る大衣と呼ばれる衣は、その昔、中国の役人が着ていた服装です。今でいうスーツみたいなものですね。
  • 出典:増一阿含経巻第31-5
(五)聞如是。一時佛在舍衞國祇樹給孤獨園。爾時世尊與無央數百千萬衆而爲説法。爾時阿那律在彼坐上。是時阿那律在衆中睡眠。爾時佛見阿那律睡眠。便説此偈 受法快睡眠 意無有錯亂 賢聖所説法 智者之所樂 猶如深淵水 澄清無瑕穢 如是聞法人 清淨心樂受 亦如大方石 風所不能動 如是得毀譽 心無有傾動是時世尊告阿那律。汝畏王法及畏盜賊而作道乎。阿那律報曰不也世尊。佛告阿那律。汝何故出家學道。阿那律白佛言。厭患此老病死愁憂苦惱。爲苦所惱故欲捨之。是故出家學道。世尊告曰。汝今族姓子。信心堅固出家學道。世尊今日躬自説法。云何於中睡眠。是時尊者阿那律即從座起偏露右肩。長跪叉手白世尊言。自今已後形融體爛。終不在如來前坐睡。爾時尊者阿那律達曉不眠。然不能除去睡眠。眼根遂損。爾時世尊告阿那律曰。勤加精進者。與調戲蓋相應。設復懈怠與結相應。汝今所行當處其中。阿那律白佛前。已在如來前誓。今不能復違本要。是時世尊告耆域曰。療治阿那律眼根。耆域報曰。若阿那律小睡眠者我當治目。世尊告阿那律曰。汝可寢寐。所以然者。一切諸法由食而存非食不存。眼者以眠爲食。耳者以聲爲食。鼻者以香爲食。舌者以味爲食。身者以細滑爲食。意者以法爲食。我今亦説涅槃有食。阿那律白佛言。涅槃者以何等爲食。佛告阿那律。涅槃者以無放逸爲食。乘無放逸得至於無爲。阿那律白佛言。世尊。雖言眼者以眠爲食。然我不堪睡眠爾時阿那律縫故衣裳。是時眼遂敗壞。而得天眼無有瑕穢。是時阿那律。以凡常之法而縫衣裳。不能得使縷通針孔中。是時阿那律便作是念。諸世間得道羅漢當與我貫針。是時世尊以天耳清淨聞此音聲。諸世間得道阿羅漢者。當與我貫*針。爾時世尊至阿那律所而告之曰。汝持*針來吾與貫之。阿那律白佛言。向所稱説者。謂諸世間欲求其福者與我貫*針。世尊告曰。世間求福之人無復過我。如來於六法無有厭足。云何爲六。一者施。二者教誡。三者忍。四者法説義説。五者將護衆生。六者求無上正眞之道。是謂阿那律。如來於此六法無有厭足。阿那律曰。如來身者眞法之身。復欲更求何法。如來已度生死之海。又脱愛著。然今日故求爲福之首。世尊告曰。如是阿那律。如汝所説。如來亦知此六法爲無厭足。若當衆生知罪惡之原身口意所行者。終不墮三惡趣。以其衆生不知罪惡之原故墜墮三惡趣中。爾時世尊便説此偈 世間所有力 遊在天人中 福力最爲勝 由福成佛道是故阿那律當求方便得此六法。如是諸比丘當作是學。爾時諸比丘聞佛所説。歡喜奉行
(大正No.125, 2巻718頁c段17行 – 719頁b段19行)

SAT大正新脩大藏經テキストデータベースより

国訳一切経阿含部9・10巻150頁

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