経典上の樹木は実在しますか?「キンスカ、シリサ、ニグローダ、菩提樹」

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経典上には登場する樹木。実在する木なのだろうか、どのような樹なのだろうか。気になって調べてみました。

キンスカの木

キンスカの木は、ハナモツヤクノキ(Butea monosperma)の木がモデルとなっています。

英語では、Flame of the forest(炎の木)とも呼ばれています。

ハナモツヤクノキの詳細は、仏教エピソード第16話に写真を提供して下さったタイの植物チェンマイよりのサイトをご覧ください。

ジャータカと阿含経のキンスカの木の違い

ところで、キンスカの木は、阿含経というお経にも登場します。しかし、こちらは先述したジャータカのものとは、違う描写がされています。

例えば、ジャータカで語られるキンスカは、つぼみから芽吹く頃、まるでろうそくの炎のように見えるとあります。

一方、阿含経では、同じ炎でも、炎で柱が焼きごげたような黒い木だと語られています。

詳しくは、双方の話をお読み頂ければと思います。

阿含経のキンスカの木については、モデルとなる実在する木があるのかどうかは不明です。

おそらく、阿含経にてお釈迦さんが語った、たとえ話(昔話)がもととなって、ジャータカの物語となり、その際、ハナモツヤクノキという実在する木をモデルにしたのだろうと私は思います。

阿含経にて、キンスカの木と似ていると語られている尸利沙果しりさか尼拘婁陀にぐろだ樹については、実在する樹木のようです。

尸利沙果(シリサ)

「もさもさっとした毛みたいなものが垂れ下がっているね。尸利沙果という名前の木と同じようなかんじだね」

こう阿含経に記される尸利沙果シリサカですが、現在では、ビルマネムと呼ばれています。

写真等を見ると、花なのでしょうか。経典にあるように、もさもさっとした毛みたいなものが垂れ下がっていました。

いんげん豆をかなり大きくしたような果実がなり、ジャータカのキンスカの木の話で四男が大きな福耳みたいな枝豆が実っているように見えたのと、共通しています。

花や豆果など、詳細な写真は、タイの植物チェンマイよりのサイトをご覧ください。

尼拘婁陀樹(ニグローダ)

『その葉は青く、また滑らかで大きな葉です。まるで拘婁陀樹のような樹ですよ……』と阿含経で語られるニグローダ樹は、ベンガル菩提樹とも呼ばれています。

沖縄でガジュマルと呼ばれている樹と同じだそうです。

目をひくのが根の部分。枝から気根(地上部にあたる根)を出します。気根が垂れ下がり、地に達すると、そこから地下に根を生やし、気根はやがて幹になります。

絞め殺し植物とも呼ばれ、他の樹木に巻き付いて、枯らしてしまうこともあるそうです。

このことからか、経典では、煩悩を描写として、ニグローダの樹が用いられることがあります。

貪欲、嫌悪など、煩悩は自身から生ずる。それはあたかもニグローダの新しい若木が枝から生ずるようなものである。

ブッダのことば スッタニパータ (岩波文庫 青301-1) [ 中村 元 ]

 

一方で、ベンガル菩提樹と呼ばれるように、菩薩の菩提心にもたとえられます。(後述)

ちなみに、お釈迦さんが菩提樹の下で悟りを開いたとされるのは、菩提樹アシュバッタ下記詳細)です。

菩提樹

お釈迦さんの「生誕」「成道(悟りを開いた時)」「涅槃(亡くなった時)」に合わせ、仏教三霊樹と呼ばれる樹があります。

生誕には、無憂樹。

成道には、菩提樹。

涅槃には、沙羅双樹。

菩提樹はそのうちの一つとなります。

菩提とは?

お釈迦さんが、菩提樹の木の下で悟りを開いたとされることからも察することができるように、菩提とは、悟りに通ずる意味を持ちます。

漢訳では、智、覚、道とも訳されます。

また菩提心は、菩提を求める心です。求道心とも理解されています。そして菩薩は、菩提を求める者という意味です。

菩薩や菩提心について様々な論議がありますので、ここでは簡単な意味の説明だけに留めさせて頂きます。

いずれにしても、菩提樹が仏教において、象徴的な樹の一つであることは、間違いありません。

アシュバッタ

さて、菩提樹と言えば、「お釈迦さんが菩提樹の下で悟りを開いた」とされる話が有名です。その菩提樹は、アシュバッタと呼ばれる樹です。

アシュバッタは、ニグローダと同じく、クワ科イチジク属の植物の一種です。

お釈迦さんが悟りを開き、七日間、このアシュバッタの樹の下で仏法と出会った喜びを感じ、坐っていたと言われています。

詳細な写真は、タイの植物チェンマイよりのサイトをご覧ください。

ニグローダ(ベンガル菩提樹)

前述したように、「ベンガル菩提樹=ニグローダ樹」です。

菩薩を象徴する木でもあり、悟りの描写としても用いられることがあります。

悟りはあらゆるもののうち最もすぐれたものであるから丁度ニグローダのようである。あまねく一切のものを覆って匹敵するものがなく、ウドンパーラのようである

『仏説無量寿経巻下』

同一の樹が、悟りと煩悩を共に描写している所は、「煩悩即菩提」という言葉を彷彿とさせ、中々に興味深いものです。

「煩悩即菩提」は「煩悩=菩提」という意味ですが、具体的な説明が難しい為、こちらの記事を参考までにご覧頂ければと思います。

また、お釈迦さんが悟りを開いた後、菩提樹の下で葛藤するエピソードがありますが、そちらの菩提樹は、ひょっとしたらニグローダなのかもしれませんね。

ニグローダ(ベンガル菩提樹)の気根や葉など、詳細な写真は、タイの植物チェンマイよりのサイトをご覧ください。

菩提樹(アオイ科シナノキ属)

アシュバッタによく似た中国原産の落葉樹です。

臨済宗の栄西さんが中国天台山からこの菩提樹の種子を持ち帰ったとされ、その種子は、比叡山に植えたとも伝えられています。

曹洞宗の道元さんは若い頃、比叡山にいました。後に、宋(中国)へ渡り、そこで如浄さんと出会い、日本に帰国して、仏法を伝えました。

宋へは、栄西さんの弟子である明全さんと共に渡りましたが、宋へ行くきっかけも、明全さんとの出会いが大きな要因だったことが考えられます。

一説には、明全さんと出会った頃、栄西さんにも直接会っていたかもしれないとのこと。だとすると、栄西さんが菩提樹の種子を持ち帰った時期も、ちょうどこの頃だった可能性もあります。

真相のほどはわかりませんが、樹木と人の縁がこうして重なっているかもしれないと思うと、なんだか感慨深いものがありますね。


 

経典上の樹木ですが、調べてみると次から次へと気になる樹木が出てきました。今回書けなかった分は、いずれまた、書きたいと思います。

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