「ジャータカとは? 」お釈迦さんの前世(?)物語

広告

ジャータカとは、一言でいうと「お釈迦さんの前世ぜんせの物語」です。ただし、前世といってもその言葉の解釈には、注意が必要です。

仮に、別の言い方をするならば、「昔話」といっても差し支えないでしょう。

日本の昔話だけでなく、イソップ物語やアラビアンナイトにも取り入れられ、世界各地の文学にも影響を及ぼしたと言われています。

本記事では、ジャータカとはどんなお経なのか、またその説明に欠かせない前世という言葉の意味ついて、まとめました。

前世とは?

ジャータカとは「お釈迦さんの前世の物語」といいましたが、まず注目したいのが「前世」という言葉の意味についてです。

前世というと、一般的には「今の自分が生まれる以前の姿」と解釈されている方が多いかもしれません。

しかし、前世という言葉は、正確にいうと「この世に生まれ出る前の世」という意味でしかありません。

文字にするとあまり大差なく感じますが、前者と後者では大きな違いがあります。

それは、前者は、生まれ変わりを前提にしているのに対し、後者は、必ずしも生まれ変わりを前提しとしていない点です。

前世は、自分が生まれる以前の過去という意味

仏教でいう前世とは、三世さんぜの一つされています。三世とは、単純に、過去・現在・未来という意味です。

過去は、すでに過ぎ去ったこと。現在は、現に生起しょうきしていること。未来は、未だに起って来ないこと。

つまり、前世というのは「自分が生まれる以前の過去」とも解釈できるのです。

この理屈であれば、過去の人々の経緯である「歴史」も前世とも言えるでしょう。

また、「昔話」のように、実話ではなく、フィクションであったとしても「自分が生まれる前の(どこかの、あるいは空想の)世(界)」の話なわけですから、これも前世といって差支えないでしょう。

このように「前世」という言葉は、一般的に思われているよりも、かなり広い意味を持つ言葉なのです。

輪廻転生は、古代インドの思想

もちろん、以上の理屈ならば、前世の言葉の意味において、生まれ変わりを前提にしている「今の自分が生まれる以前の姿・・・・」も、前世と言って、差支えありません。

ただし、この生まれ変わり、いわゆる輪廻転生の思想は、古代インドの共通認識、思想・風習であって、必ずしも、仏教共通の認識というわけではないのです。

生ある者が生き死にを繰り返す輪廻思想は、古代ギリシアや古代エジプトでも知られます。

お釈迦さんの時代、約2500年前の古代インドでも、死後生まれ変わるという輪廻思想は、なかば常識的に捉えられていたそうです。

仏教の長い歴史において、これら古代インドの思想に影響を受け、輪廻について言及するグループ、宗派や学派があったこともまた事実です。

その為、仏教が伝わるのと同じくして、この輪廻思想もまた、各地へと伝わっていきました。日本では、古くから、生まれる前にあった一生を前世、現在の生涯を現世、死後の生涯を来世とし、三世ということもありました。

お釈迦さんは答えていない(無記)

しかし、お釈迦さんは、死後の生まれ変わりに関して、何も言及していません。当時、死後の存在などに関する質問をする人もいましたが、お釈迦さんはこれらの質問に対し、答えませんでした。(仏教エピソード⑦)

仏教では、こうして答えないことを「無記むき」といいます。

輪廻思想に関して、否定もしなければ、肯定もしていない、そもそも、お釈迦さんは答えていないのです。

よって、輪廻転生の思想は、古代インドの思想であって、必ずしも仏教全体での共通した認識ではありません。

少なくとも禅僧である私は、無記の立場です。前世という言葉も、単純に「過去」という意味合いで捉えています。

ジャータカとは?

ところで、「ジャータカ」についてですが、このお経は別名「本生ほんじょう」「本生ほんじょうたん」とも呼ばれています。

本生とは、お釈迦さんの前世の姿という意味です。つまり、漢名においては、既に輪廻思想が反映されています。

お釈迦さんが、前世において、別の姿であった時に、生きとし生けるものを救った、その善行の物語を集めたもの。それをジャータカと呼んでいるのは間違いありません。

しかし、それらの物語のもとになっているのは、紀元前3世紀頃、当時インドに伝わっていた伝説や昔話などの言い伝えだと考えられています。それら言い伝えに仏教的色彩が加わり、ジャータカというお経になっていきました。

また、古い経典内には、お釈迦さんが説法する際に、たとえ話を用いることがありました。そのたとえ話の中には、昔話も登場します。(例:キンスカの木

これらの昔話がインドでの言い伝えなのか、お釈迦さんがオリジナルで考えた、たとえ話なのかはわかりません。

しかし、キンスカの木の話など、お釈迦さんがたとえ話として語っている昔話がもととなって、ジャータカの物語の一つとして、現代に語り継がれているケースもあるのです。

よって、繰り返しにはなりますが、必ずしも、ジャータカは、お釈迦さんが生まれる以前の姿の物語といえるわけではないのです。

あくまでも前世とは「生まれ出る以前の世」という意味です。「過去」「昔話」「歴史」とも解釈できるわけですから、お釈迦さん自身が、たとえ話として語った昔話も、前世の物語と言えるでしょう。

つまり、ジャータカは、お釈迦さんが生まれる以前からあった過去の話やお釈迦さんが昔話として語った物語などで、「過去」というキーワードを中心に集めれられた物語だというわけです。

キンスカの木の話は、仏教エピソードにて、ご紹介しています。第16話はジャータカ、第44話は阿含経のキンスカの木です。

↑阿含経のキンスカの木の話(仏教エピソード第44話)は、2021年8月に掲載予定です。


 

コメント

タイトルとURLをコピーしました