お香(写真右側)をつまみ、炭の上に落とすと、すぅ~っと煙が立ちのぼります。
そうやって香と焚く、お焼香。
子供の頃、静かに立ち上るその煙の様子を眺めるように観ていた記憶があります。水が流れているのを眺めているのと似ているのでしょうか……。
それと同時に「これは何なのだろう。なんでやっているだろう?」と子供心に感じていました。
今回は、そんな子供時代の疑問に、今の自分が応えます。
お焼香って何なのだろう?
お焼香とは、何なのか?
それを探るにはまず、どうして「お焼香」が生まれたのかを考えていきましょう。
お焼香の始まり
仏教が生まれた古代インドでは、人々は日常生活の中で香を使っていました。
香を薫じたり、身体に塗ったり、あるいは衣服につけたり。そうやって、悪臭を除く、或いは良い香りをつけるために、お香を使うわけです。
現代で例えるなら、香水をつけたり、芳香剤を使ったり、あるいはアロマとして香を焚くこともありますが、それと同じです。
そのような古代インドの風習が仏教の供養にも取り入れられました。
ちなみに、香を焚くという風習は、仏教が伝わる以前の中国や日本にはなく、仏教と共に行われるようになったそうです。
また他にも、私がある老師から「燻す」という意味合いもあると聞きました。
かやぶきの屋根を掃除する際に、煙を焚いて虫を掃ったり、殺菌したりするわけです。いずれにしろ、そこから綺麗にする、清らかにするといったイメージが湧いてきます。
香を焚いて、悪臭を取り除き、空気を清らかにする。それを供養として行う。
これが「お焼香」のはじまりです。
線香や抹香は、香木の加工したもの
インドは、香木の産地としても有名です。白檀という香木の名前聞いた事はないでしょうか。他にも沈香、伽羅などのお香の名前をよく目にします。
おそらく私達が普段見かけるお焼香は、以下の写真のようなものだと思います。
右にある粉状のもの。子どもの頃は「何か粉みたいなのを入れると煙がでる!」と思っていましたが、これは香木を粉末状にしたもので、抹香と呼ばれています。
香木を焚くので、もっとはっきりと木の破片だとわかるお香もありますよ。
また線香も同じく、香を焚く一つの形状として、加工されたものです。
つまり、線香を供える事とお焼香をする事は、同じ意味合いであるということですね。
お焼香って何故するの?
なんで、お焼香するの?
これは意外と難しい質問です。なぜなら「何故やるか?」「如何やれば?」なんてことは、自分の意から表れることですから。そこに正解はありません。
ただ、色んな人がやっているその姿・形からは、そこに込められた様々な意味を垣間見る事ができます。
お焼香込められた意
さて、お焼香は、もともと「香を焚いて悪臭を取り除き、空気を清らかにする」というインドの風習が、仏教の供養として取り込まれたものでした。
私達人間は、嗅覚という感覚があります。当然、悪臭は嫌がり、芳香は好みます。
当時のインドの人達も現代と同じ、この「香」にも気を配り、日常の生活の中でお香を用いていました。
そのようなこころづかいを、仏教に対してもまた、行ったわけです。
そのことからも、お焼香の意が伝わってきます。
また、お焼香の作法にも、様々な意が見られます。
例えば、お焼香をする際、指三本でお香をつまむと聞いた事がないでしょうか?
何故、指三本なのでしょうか?
これは、私達が修行道場での食事(以下、僧堂飯台)の作法と共通する点があります。
食事の際は、お箸や匙や器は全て、指三本で扱います。
このことから、お焼香は、食事としての意味もあると、私は老師から教わりました。
またそれと関連して、お焼香を二回する場合、一回目を念じて、二回目は念じずに、そのまま炭に落とします。
僧堂飯台にも、必ず「おかわり」があります。だから、一回目は念じて、二回目を念じないのは、おかわりの意味もあるからだとも、教わりました。
このような、意もあるわけです。
私達の周りには、遠く昔から現代まで、様々な時代や国の人達が、それぞれの想い、意を込めてきたものがたくさんあります。
私達は現に今、その姿を観る事ができます。お焼香もその一つだと言えるでしょう。
ここに挙げただけでも、「香」として、あるいは「食事」として、供養する。たしかに細かな違いはありますが、そこに込められた様々な人々の意には、通じるものがあるのではないでしょうか。
それは言葉では、簡単には表現できません。だからこそ、こうして何か別の形にして、その意を表現するのかもしれません。
言い換えれば、私達は、言葉を介さずとも、ただそれを行うだけで、その意に触れるているのです。それこそ、お焼香を通じて、昔の人達(故人)と対話しているとも言えるのではないでしょうか。
そのような対話から私達は自ずとその意を知り、そして、その意から大切なことを教わります。
それだけでも知っておくと自分がどのような意を込めて、お焼香をすればいいのかということも、自ずと見えてくるのではないでしょうか。
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