大事にするって何だろう……?
大事にしているもの、大切だと思えるもの……。
もし、それを失ったら、きっと悲しくて苦しいだろう。
失いたくない。だから守りたい。できるだけ危険から遠ざけたい。
大切に思うからこそ、あらゆる危険から守りたい。手放したくない。
できることなら、肌身離さず、ずっと自分の側にいてほしい。
親鳥が卵を抱くように。
でも、もし、自分自身がそうされたら、きっと私は束縛を感じるだろう。
身動き一つとれないその状況に、きっと反発するだろう。
縛りつけられる感覚に、きっとこの身は耐えられない。
「それじゃあだめだ……」となんとか自力で歩みだそうとしたその時に、もし、腕を掴まれ、引かれたとしたら、きっと、私はその腕を振り払うだろう。そしてそれは、とても苦しい事だと思う。
だからきっとこれは、大事にするという事ではないのだろう。
大事にしているもの、大切だと思えるもの……。
もし、それを束縛してしまったら、きっと後悔に苦しむだろう。
縛りたくない。だから解きたい。できるだけ自由にさせたい。
大切に思うからこそ、あらゆる束縛から解き放ちたい。閉じ込めたくない。
できることなら、何ものにも縛られず、望むがままに、自由でいてほしい。
雛鳥が巣立ち大空を羽ばたくように。
でも、もし、自分自身がそうなったら、きっと私は思いのままに羽目を外すことになるだろう。
知らない間に、きっと壊してしまうこと、壊れてしまうものがあるだろう。
何ものにも縛られない解放感に浸り続ければ、きっとこの身は滅ぶ。
「それじゃあだめだ……」となんとか止めようとしたその時に、もし、誰も止めてくれなかったら、関わってくれなかったら、きっと、独りではどうしようもできないだろう。そしてそれは、とても苦しい事だろう。
だからきっとこれは、大事にするという事ではないのだろう。
しかし、それでも、親鳥が卵を抱くことが、大事にしていないとは思えない。
そして、それでも、雛鳥を巣立たせることが、大事にしていないとは思えない。
抱くことも、手放すことも、腕をつかんでも止めてくれることも、あえて何も言わないでいてくれることも、大事にしていないとは思えない。
やはりそれは、大事にしているのだろう。
何も変わらない。なにも違わない。大事に思う気持ちは同じ、やっていることは同じ。
だけど、大事にするということは、やっぱり何か違うのだ。
大事にするって何だろう。この違いは何だろう。
きっと考えても何も変わらない。することは変わらない。できることは変わらない。
それでも何かを感じ、こうして考えている。
きっと考えても何も変わらない。することは変わらない。できることは変わらない。
でも何かが、確かに変わっている。何も変わらないのに、何かが変わっている。
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