私は曹洞宗総合研究センターに在籍時、2011年5月~2012年1月にかけて、海外研修として、アメリカのロサンゼルス、サンフランシスコ、そしてブラジルのサンパウロに行きました。
各国で伝え拡がっている禅仏教の今の姿をこの目で見てみたかったからです。
「禅が海外に?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、現在、禅は海外に広まり、多くの人々が関心を寄せています。
北米や南米、そしてヨーロッパ、またオーストラリアなどにも禅のお寺があります。
ちなみに「 SotoZen Net International(曹洞宗の公式ホームページ海外版)」から日本曹洞宗が認可している海外寺院を見ることができます。
海外寺院の検索はこちら⇒ 「Organization and Temples Outside Japan」(※外部リンク)
日系寺院と禅センター
海外にはすでに多くの禅寺がありますが、そのうち私が足を運べたのは、20ケ所ほどとなります。
日本のみならず、海外にもある禅寺。ただし、一口にお寺といっても、その形は様々です。
例えば日本の曹洞宗では、僧堂があります。僧堂は曹洞宗の僧侶育成のための機関でもあり、端的に言えば修行道場です。僧堂に入るには、まず曹洞宗の僧侶であることが前提です。
一般的に法事や葬儀などでお世話になるお寺と上記のお寺とでは、同じお寺と言えど違いを感じる事と思います。
こういう違いを分かり易くするために、仮にここでは「修行道場(僧堂)」と「(一般)寺院」に分類するとしましょう。
他にもお寺には、様々な分類の仕方がありますが、今は、同じお寺といえど、さまざまなタイプがあることを理解してもらえたら大丈夫です。
海外においても日本同様、様々なタイプのお寺がありますが、大きく分けて以下、二種類のタイプに分けることができます。
日系寺院
日本以外の国へ移住し、その国の国籍や永住権を取得した人達は日系人と呼ばれています。
19世紀後半~20世紀初頭にかけ、多くの日本人が海外に移民しました。私が行ったアメリカ、ブラジルにも、当時多くの日本人が移民しました。
当時の日系人の人達は、遠い異国の地で故郷の日本を想い、やがてその想いは、寺院建立という形となりました。
そうしてできたお寺は、日系人の方々が建てたお寺ということで「日系寺院」とも呼ばれます。
異国の地にありながら、「ここは日本!?」と感じさせるくらい日本のお寺そのままで、日本人の私とっては故郷を感じさせる場所でした。
よって端的にいえば、日本でいう「(一般)寺院」と同じだと考えてよいでしょう。ただし、私達日本人が、日本と想う以上に、日本的な空間です。
私はこの海外研修以外にも、イギリス留学など、海外で生活した経験があります。
日本にいるとあまり気にしなかったのですが、海外に出て初めて、日本の空気、日本の文化、日本らしさ等々、「日本」を強く意識しました。
海外生活で辛い時は、例えば、味噌汁が飲める、日本語の本を読むなど、「日本」的なものに出会える、それだけで嬉しかったことを覚えています。
きっと当時移民した日系人の方々は、それ以上に、日本を想っていたことだと想像できます。今みたいに、簡単に飛行機で移動できる時代ではありませんから……。
こうして故郷の日本を想い、形となったのが、日系寺院という場です。
その為、日系寺院は、遠い異国の地において、日本の文化や日本のすばらしさなど、まさに「日本」を伝える場となっています。
またその「日本」の中には、もちろん仏教も含まれていることを忘れてはいけません。
私が行った日系寺院は全て、日本のお坊さんが呼ばれ、日本人が住職をしていました。
坐禅会などを含め、書道や日本の料理教室、生け花などなど、「日本」に関するアクティビティ(活動)も豊富に行われています。
禅センター
さて、海外にある禅寺のもう一つの形が「禅センター」と呼ばれるお寺です。
日系寺院は基本的に「日本」を中心とした場でしたが、そこへ興味を持った日系人以外の移民の人々がいました。アメリカでいえば、例えばヨーロッパ系アメリカ人と呼ばれる人達です。
彼らはそこで禅僧と出会い、初めて、禅仏教というものに直に触れました。
アメリカで禅を伝えた有名な禅僧としてよく名前が挙げられる、鈴木俊隆老師、前角博雄老師がいます。両老師も最初は、日系寺院の住職として、渡米してきました。1960年頃の事です。
坐禅会などを通じて、アメリカ人が禅仏教に興味を持ち、日系寺院に通うようになりました。
そこから本格的に禅を学びたいと望むアメリカ人と共に、日本でいう「修行道場(僧堂)」という場を作りたいという声があがりました。
そうして禅に関心を持ったアメリカ人の参禅者達と、新たに設立したのが「禅センター」です。
よって、禅センターとは、端的にいうと、永平寺や総持寺などの僧堂と似ています。しかし、一つ大きな違いがあります。
それは僧侶でなくとも、出家在家問わず、誰でも禅センターに入ることができる、つまり修行道場に入ることができる点にあります。
現在では、鈴木老師や前角老師の弟子であるアメリカ人の禅僧達が、各禅センターにて指導に当たっています。
同じ禅センターといっても、鈴木老師の法系(師弟の系統)、前角老師の法系で、それぞれ特徴が違います。
例えば、前角老師は臨済宗でも修行していたため、曹洞宗と臨済宗の家風が混在しています。
他にもアメリカで名を聞く禅僧はいますが、私が訪れた禅センターは、両老師どちらかの系統の弟子が指導している禅センターとなります。
鈴木老師系の禅センター
サンフランシスコ禅センター
ここは三つの禅センターを包括してそう呼ばれています。
まず、サンフランシスコの街中にあるシティセンター。
アメリカ最初の禅センターでもあります。
サンフランシスコの郊外にあたるグリーンガルチファーム禅センター。
田畑があり、農作業ができる禅センター。昔は自給自足していたらしいです。
タサハラ禅マウンテンセンター
ロサンゼルスから車で8時間。途中、舗装されていない山道をかなり走らないと辿り着けないほど、山奥にある禅センターです。
ソノマ禅マウンテンセンター
1973年にJakusho師(鈴木老師の弟子)が新たに設立した禅センターです。
サンフランシスコから車で約1時間、ソノマの山奥の場所にあります。
前角老師系の禅センター
陽光寺禅マウンテンセンター
私が本格的に滞在した初めての禅センターなので、個人的に思い入れがあります。
ロサンゼルスから車で約3時間、アイデルワイルド近くの山奥にあります。
禅センターオブロサンゼルス
ロサンゼルスの町中にある禅センター。アメリカでは禅僧による社会活動も積極的に行われており、こちらの僧侶の方と一緒に刑務所訪問をさせて頂いたのも、記憶に残っています。
その他、禅グループ・禅コミュニティ
上記のように、お寺を構え、禅センターとして活動している所以外にも、アメリカ、そしてブラジルには、様々な禅のグループがあります。
小規模なグループから、上記の禅センターのような大規模な禅コミュニティもありますが、今回の記事での紹介は割愛させていただきます。
色んな所に足を運ぶ中で、私が感じたのは「Zen is no border(禅に国境はない)」ということでしょうか。
どこの場所に行っても、坐禅や仏教などに、興味をもって訪れる参禅者の姿を目にしました。どこにいっても参禅の場がありました。
そして、そこに来る人達は、国境も関係ないどころか、宗教も関係なく、参禅に来ていました。現に私が、禅センターで一緒に過ごした人の中には、キリスト教やユダヤ教の方もいらっしゃいました。
もちろん、性別も、年齢も、人種も、経歴も、何の境もありません(no border)。本当に、様々な人が、境なく、分け目なく、触れる事のできる禅・仏教の姿を目にしました。
私自身も「禅・仏教っておもしろい」と感じている一人です。しかし、それは「独りよがり所もあるんじゃないか、理解してくれる人は少ないんじゃないか」と思う頃もありました。
特に日本には先入観もあって、一般的に認識されている禅・仏教と、私が魅力を感じる禅・仏教の間には、大きな隔たりがあると感じていましたから。
しかし、様々な国で、色んな人の心に、禅・仏教が響いていることを感じました。そしてその事実は、同時に私に自信をくれました。
独りよがりの過信でもなく、理解してもらえないんじゃないだろうかと自信の無くすわけでもない、誰にでも境なく伝わるのだという自信を。
この記事から、境の無い禅・仏教に、あるいは先入観のない禅・仏教に、何かしらの興味を持っていただけると幸いです。
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