思い込みが生んだ誤解と嘘

仏教トーク46

本記事は「雑阿含経巻第38-1075」の内容をもとに作りました。

登場するダッバ、メッティヤ、ミッタラは、お釈迦さんの弟子です。また、メッティヤとミッタラは兄妹です。

仏教に詳しくなくても、人間関係や思い込みの怖さを描いた物語として楽しめます。

粗末な食事から起こる誤解

メッティヤ
メッティヤ

いただきます。ん?

何だ? この粗末な飯は……?

メッティヤ
メッティヤ

おいおい。ダッバさん。何なんですか。この食事は!?

ダッバ
ダッバ

そちらも信者の方々から頂いたものです。そういわず、どうぞ召し上がってください。

メッティヤ
メッティヤ

いや、でも、食べにくいですよ。これ……。

弟子1
弟子1

ごちそうさまでした。

弟子2
弟子2

お給仕の役、いつもありがとうございます。ダッバさん。

ダッバ
ダッバ

いえいえ。とんでもありません。

メッティヤ
メッティヤ

本当にとんでもないよ、あんな粗末な食事を給仕するなんて。お礼なんて言わなくていいですよ。

弟子1
弟子1

メッティヤさん。それはおかしいですよ。

弟子2
弟子2

皆が等しく食せるように分けて、給仕してくださっているのですから。

メッティヤ
メッティヤ

ふん。私はこの人に、3回ぐらい、粗末な飯をあてられているですよ。

ダッバ
ダッバ

いや、それは———

メッティヤ
メッティヤ

うるさい!

多くの弟子達はダッバが公平に配ってくれたことを理解していました。しかしメッティヤは、以前にも粗末な食事をあてられた経験から、嫌がらせだと思い込んでしまいました。

妹ミッタラへの相談と誤解の連鎖

怒ったメッティヤさんは、食事所から出ていきました。そして、妹のメッティヤの所へ向かいました。

メッティヤ
メッティヤ

絶対におかしい。私にだけあんな粗末な食べ物を入れやがって……。きっとダッバの嫌がらせに違いない。私が食べにくそうにしている所を見て、おもしろがっているんだろう。

 

くそ……。

なんで私がこんな目にあわなきゃいけなんだ……。

ミッタラ
ミッタラ

どうしたんですか? 兄上。

メッティヤ
メッティヤ

……

ミッタラ
ミッタラ

どうして黙っておられるのですか。兄上。

メッティヤ
メッティヤ

何度も言っているだろう。兄上呼びはやめろ。私はもう、お釈迦さんの弟子になったのだから、いくら兄弟でも、それ相応の呼び方というものがあるだろう。

ミッタラ
ミッタラ

失礼しました。兄……、阿梨あり(※1)様。それでそうして黙っておられたのですか?

メッティヤ
メッティヤ

いや、まぁ。ダッバという給仕係を知っているか?

ミッタラ
ミッタラ

はい。給仕係というか、私達と同じお釈迦さんの弟子ですから。

メッティヤ
メッティヤ

あのダッバが酷い嫌がらせをするんだよ。私に度々、粗雑な飯を盛るんだ。

ミッタラ
ミッタラ

また阿梨様の早とちりではないですか?

メッティヤ
メッティヤ

そういってお前も私を見捨てるのか? 皆、そうやってダッバの肩をもつのか。

ミッタラ
ミッタラ

見捨てるなんて……。私はそんな事しませんよ。

メッティヤ
メッティヤ

どうせ、お前もダッバの味方をするんだろう。

ミッタラ
ミッタラ

なら私にどうしてほしいのですか? 私はどうしたらいいのでしょうか? どうしたら阿梨様の味方と信じてくれますか?

メッティヤ
メッティヤ

そうだな。お釈迦さん師匠の所に行って、私がダッバから嫌がらせをされていると言ってきてくれないか?

ミッタラ
ミッタラ

師匠に直接ですか?

メッティヤ
メッティヤ

ダッバは、私という人間を悩まし苦しめている。人を悩ませ苦しませるダッバは、もう仏道を歩む者としてふさわしくないと思うだろう? お釈迦さんの教えに背く行為だ。

 

つまり、罪を犯しているのだよ。

ミッタラ
ミッタラ

それを……私が? 師匠にいうのですか?

メッティヤ
メッティヤ

そうだ。「ダッバは罪をしている」と師匠に言ってくれ。私も「妹の言う通りだ」と口添えするから。

ミッタラ
ミッタラ

阿梨様。なぜ私が罪を犯していると、他の仏弟子の事を誹謗しなければならないのですか?

ほら、所詮その程度

メッティヤ
メッティヤ

……。いいさ、実の妹といえど、どうせ、私の事を信じていないのだろう?

ミッタラ
ミッタラ

そんな事は……。

メッティヤ
メッティヤ

もういい! 次から顔を合わせても、お前とは口を利かないからな。いいな!?

ミッタラ
ミッタラ

……

メッティヤ
メッティヤ

この恩知らずが……。もうお前とは縁を切る!

ミッタラ
ミッタラ

わかりました、阿梨様。あなたの言う通りにします……。

 

それで、具体的には私は何をすればいいのですか?

メッティヤ
メッティヤ

ちょっと待て。私が師匠の所へ先にいく。

お前は私のあとについてきてくれ。

罪を捏造してお釈迦さんに訴える兄妹

二人はお釈迦さんの所へ向かいました。

メッティヤ
メッティヤ

師匠、本日は、妹弟子のミッタラの為にお時間を作っていただき、ありがとうございます。

ミッタラが師匠にどうしても報告したいことがあるようで……。

ミッタラ
ミッタラ

えっと……。

メッティヤ
メッティヤ

ほら、ダッバの事について、言いたいことがあるのだろう?

ミッタラ
ミッタラ

師匠。弟子の中に善からぬ者がいます。

ダッバは罪を犯しています。

メッティヤ
メッティヤ

妹の言う通り、ダッバは罪をしています。

実は私も彼から嫌がらせをされていまして。

弟子1
弟子1

メッティヤさんの嫌がらせの件は、メッティヤさんが自分で勝手に苦しんでいるだけなのでは?

弟子2
弟子2

ダッバさんが女性との罪を作した!? そんなことあるわけないでしょう!?

お釈迦さん
お釈迦さん

熱くなる前にダッバさんの言い分を聞いてみましょう。

弟子2
弟子2

はい。私が呼んできます。

ダッバ
ダッバ

お呼びでしょうか?

メッティヤ
メッティヤ

彼は食事に関する事で、私を悩まし、苦しめました。これは間違いない事です。妹も言っているように、彼は罪人です。

お釈迦さん
お釈迦さん

メッティヤさんは、こう言っているのですが、あなたも彼から何か聞いていますか?

ダッバ
ダッバ

はい。聞いております。

お釈迦さん
お釈迦さん

あなたから、今、何か言いたいことはありませんか?

ダッバ
ダッバ

師匠もからの発言を聞かれたと思います。ですから、ご存じのはずです。私は師匠の判断にお任せします。私は言い争うべきではないと思いますので、ここは黙っておこうと考えています。

お釈迦さん
お釈迦さん

ダッバさん。ここは「師匠はもうご存じのはず」という所ではありません。もし、あなたに罪を挙げられる心当たりがあれば、言ってください。なければ無いと言ってください。

ダッバ
ダッバ

罪を作したという点について、心当たりはありません。

ラーフラ
ラーフラ

師匠。善からぬ者がいるといったのは、メッティヤさんではなく、彼の妹のミッタラさんが言ったのです。ダッバさんと彼女は善からぬ関係を持った。そういう意味で罪を作した。

その罪を告白しにきたのではないのですか?

お釈迦さん
お釈迦さん

ラーフラ。メッティヤさんやミッタラさんから事情を聞いた時、あなたも聞いていましたよね?

ラーフラ
ラーフラ

はい。今日は、私が師匠の侍者(お世話をする役)ですから、横で聞いておりました。

お釈迦さん
お釈迦さん

あなたはどうするべきだと思うのですか?

ラーフラ
ラーフラ

「ミッタラさんと関係を持ったか?」という意味で、「罪を挙げられる心当たりがあれば言ってください」とダッバさんに問うたのですよね?

お釈迦さん
お釈迦さん

ラーフラ。憶測だけでそこまで言ってはいけません。それにダッバさんひゃ「罪を作したという点で心当たりはありません」と言っていたでしょう? 一方の主張だけに偏ってはいけません。

ラーフラ
ラーフラ

はい……。

お釈迦さん
お釈迦さん

他にも事情を知っていそうな者がいたでしょう。 詳しく聞いてみましょう。

その後の聞き取りから、ダッバさんの無実が証明されました。お釈迦さんは弟子達を集めました。

明らかになる事実、誤解を解く

お釈迦さん
お釈迦さん

皆さんにお伝えします。今回、騒ぎがあったことは、皆さんも知っているかと思います。この件について、ダッバは何も悪くありませんでした。

弟子2
弟子2

良かった。ダッバさんが変に疑われなくて……。

お釈迦さん
お釈迦さん

そして、ミッタラさん。あなたは自らの発言を覚えていますか?

ミッタラ
ミッタラ

申し訳ありません……。私の一言で、ここまでの事態になるとは思いもしませんでした。

お釈迦さん
お釈迦さん

そうです。たった一言です。あなたの一言で、事態は大きくなってしまいました。

ミッタラ
ミッタラ

私はどうすれば……。

お釈迦さん
お釈迦さん

この場で皆に事実を説明しなさい。そして過去の発言を撤回すべきです。

ミッタラ
ミッタラ

私は、兄に言われて「ダッバさんは罪を作している」と嘘をついてしまいました。師匠、皆様、それにダッバさん。大変、ご迷惑をおかけしました。本当にごめんなさい。

お釈迦さん
お釈迦さん

よろしい。いつ、どこで、何を見たか、何が原因で、どうしてそうなったのか。よく考え、学びなさい。それはメッティヤさん。あなたにも言えることです。

メッティヤ
メッティヤ

はい……。

お釈迦さん
お釈迦さん

この場で皆に説明しなさい。それが諫めになり、誡めになり、教えとなるでしょう。

メッティヤ
メッティヤ

ダッバさんは無罪です。私が怒りや憎しみに執らわれたのは、食事の一件が原因です、ダッバさんは私の器に食事を給仕してくれていますが、過去に三回ほど、粗末な食事が盛られていました。

 

私は嫌がらせだと思い込みましたが、皆に均等に分けられたものでした。

 

嫌がらせされていると思い込んだ私は、妹に頼み込み「ダッバさんは罪を作している」師匠に言うように言いました。

 

結果として、ダッバさんとミッタラが関係を持ったという誤解が生まれてしましました。

 

ダッバさんもミッタラもそんな事実はありません。

お釈迦さん
お釈迦さん

ミッタラさんは「ダッバさんは罪を作している」という発言は、事実ではないと明らかにしました。

 

そして、メッティヤさんの説明からも皆さん、お分かり頂けたことでしょう。ダッバさんは無罪であると。

 

今回の出来事から、皆さんも学んでください。今回、何が愚かだったのでしょうか?

 

食べ物による恨みを理由に、それを知りながら『人を惑わすうそをついた』という事です。これは人間関係や信頼関係を大きく損なう行為です。

 

不妄語戒ふもうごかい」という戒律がありますね。たとえ丸焦げになったような食事を食べることになったとしても、この戒律を犯すようであれば、その食事さえ食べる資格はありません。

メッティヤ
メッティヤ

承知いたしました。改めて謝罪させていただきます。本当にごめんなさい……。

補足

原文や動画、仏教用語の説明や関連する仏教知識など、補足として参照できます。

原文

  • 雑阿含経巻第38-1075

(一〇七五)如是我聞。一時佛住王舍城迦蘭陀竹園。時有陀驃摩羅子。舊住王舍城。典知衆僧。飮食床座隨次差請。不令越次。時有慈地比丘。頻三過次得麤食處。食時辛苦作是念。怪哉大苦。陀驃摩羅子比丘有情故。以麤食惱我。令我食時極苦。我當云何爲其作不饒益事。時慈地比丘有姊妹比丘尼。名蜜多羅。住王舍城王園比丘尼衆中。蜜多羅比丘尼來詣慈地比丘。稽首禮足於一面住。慈地比丘不顧眄。不與語。蜜多羅比丘尼語慈地比丘。阿梨。何故不見顧眄。不共言語。慈地比丘言。陀驃摩羅子比丘數以麤食惱我。令我食時極苦。汝復棄我。比丘尼言。當如何。慈地比丘言。汝可至世尊所白言。世尊。陀驃摩羅子比丘非法不類。共我作非梵行波羅夷罪。我當證言。如是世尊如妹所説。比丘尼言。*阿梨我當云何於梵行比丘所以波羅夷謗。慈地比丘言。汝若不如是者。我與汝絶。不復來往言語共相瞻視。時比丘尼須臾默念。而作是言。*阿梨。欲令我爾當從其教。慈地比丘言。汝且待我先至世尊所。汝隨後來。時慈地比丘即往稽首。禮世尊足退住一面。蜜多羅比丘尼即隨後至。稽首佛足退住一面。白佛言。世尊。一何不善不類。陀驃摩羅子於我所作非梵行波羅夷罪。慈地比丘復白佛言。如妹所説。我先亦知。爾時陀驃摩羅子比丘即在彼大衆中。爾時世尊告陀驃摩羅子比丘。汝聞此語不。陀驃摩羅子比丘言。已聞世尊佛告陀驃摩羅子比丘。汝今云何。陀驃摩羅子白佛。如世尊所知。如善逝所知。佛告陀驃摩羅子。汝言如世尊所知。今非是時。汝今憶念當言憶念。不憶念當言不憶念。陀驃摩羅子言。我不自憶念。爾時尊者羅睺羅。住於佛後執扇扇佛。白佛言。世尊。不善不類。是比丘尼言。尊者陀驃摩羅子共我作非梵行。慈地比丘言。如是世尊。我先已知如姝所説。佛告羅睺羅。我今問汝。隨意答我。若蜜多羅比丘尼來語我言。世尊。不善不類。羅睺羅共我作非梵行波羅夷罪。慈地比丘復白我言。如是世尊。如姝所説我先亦知者。汝當云何。羅睺羅白佛。世尊。我若憶念當言憶念。不憶念當言不憶念。佛言羅睺羅。愚癡人汝尚得作此語。陀驃摩羅子清淨比丘。何以不得作如是語。爾時世尊告諸比丘。於陀驃摩羅子比丘當憶念。蜜多羅比丘尼當以自言滅。慈地比丘僧當極善呵諫教誡。汝云何見。何處見。汝何因往見。世尊如是教已。從座起入室坐禪。爾時諸比丘於陀驃摩羅子比丘憶念。蜜多羅比丘尼與自言滅。慈地比丘極善呵諫教誡言。汝云何見。何處見。何因往見。如是諫時彼作是言。彼陀驃摩羅子不作非梵行。不犯波羅夷。然陀驃摩羅子比丘三以麤惡食恐怖。令我食時辛苦。我於陀驃摩羅子比丘。愛恚癡怖故作是説。然陀驃摩羅子清淨無罪。爾時世尊晡時從禪覺。至大衆前敷座而坐。諸比丘白佛言。世尊。我等於陀驃摩羅子比丘所憶念持。蜜多羅比丘尼與自言滅。慈地比丘極善呵諫。乃至彼言。陀驃摩羅子清淨無罪。爾時世尊告諸比丘。云何愚癡。以因飮食故知而妄語。爾時世尊即説偈言 若能捨一法 知而故妄語 不計於後世 無惡而不爲 寧食熱鐵丸 如熾然炭火 不以犯禁戒 而食僧信施佛説此經已諸比丘聞佛所説。歡喜奉行
(大正No.99, 2巻279頁c段14行 – 280頁b段24行)

SAT大正新脩大藏經テキストデータベースより

  • 国訳一切経阿含部3巻83頁

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